■体調はどうですか、とか自問自答すると、あんまりよろしくありません、と答えます。
まあ、夏はね、いつも体調悪いから。

■テドン 2
屋根の穴から降り注いでくる太陽のまぶしさで目が覚めた。
穴から見える空は青くて、雲が流れていくのが見える。今日もいい天気になりそうだ。
「おはよぉう」
半分眠ったような声のままチッタは大きく伸びをする。
「揺れないベッドってステキだわぁ、このありがたさを忘れちゃ駄目だねー」
あくび交じりの声に苦笑する。
「ご飯食べて、どうして家を直さないのか聞いてみようか」
そんな話をしていると、ドアがノックされた。
「皆さん、おきてますか?」
少し硬い、リュッセの声。
「おきてるよー」
返事をしてから、部屋の中を見る。入ってもらっても大丈夫そうだ。
「いいよー、入ってきてー」
リュッセは一度ドアを細く開けて、その隙間から中を覗いて確認してから、ゆっくり部屋に入ってきた。表情がこわばっていて、心なしか青ざめているように見える。
「何だい、朝から調子悪そうな顔して」
カッツェが片眉を跳ね上げた。それから大きく息を吐き出す。
「宿の人が居ません」
「は?」
リュッセが何を言っているのか分からなかった。
言っているほうも軽い混乱状態なのか、そこで一度視線をぐるりと宙にさまよわせてから、もう一度私をみる。
「ですから、宿の人が居ないんです。いや、宿の人だけじゃなくて」
リュッセはそこで、雨に汚れた窓を見やった。つられて外を見る。明るく晴れた広場が見える。けど、朝だというのに人が一人も歩いていない。いくら昨日の夜、宵っ張りな人たちが沢山歩いていたからって、全員で寝坊しているとは思えない。
「起きてからしばらく外を観察してたんですけど、誰一人として広場を通っていかないんです。朝だというのに、変でしょう? それで宿の中を見て回ったんですけど、宿にも誰も居なくて」
「……何かあったのか?」
「深夜に物音などは無かったと思うのですが」
私たちは顔を見合わせる。
「ともかく、村の様子を見て回ろう」

手始めに宿の中を見て回る。リュッセの言うとおり、宿の中には誰も居ない。念のため厨房なんかも見て回ってみたけど、中は荒れ果てていて、戸棚は倒れているし食器類は割れて床に散乱しているし、と酷い有様だった。日の光のしたでみると、床には埃が積もっている。私たちの足跡だけが残っていた。
「なんか……打ち捨てられて随分たってる感じがする」
チッタがぼそりという。私はぎくしゃくと頷いた。
「誰も、居ない、のかな」
私の呟きに、誰も答えない。

明るい太陽の下で見るテドンは、酷い有様だった。
草は伸び放題に伸びて、家という家はどこかしら壊れている。一番酷いのは教会で、屋根も壁も半分以上崩れ落ち、更に火事を起こしたあとがあった。時折空を飛んでいく鳥と、吹きぬける風に動く草以外、動くものは何も無く、物音もしなかった。
「ねえ、何で?」
誰に聞くとも無く声に出す。
「昨日、私話をしたよ? 空を飛びたいって女の人と喋った! 魔物が来たら撃退するっておじいさんとも! ねえ、何? 何で!?」

何か、ちりちりしたものが、胸の奥にある。
泣きそうだ。
なんとなく、何があったのか、本当は分かってる。
けど、認めたくない。
だって。
皆幸せそうだった。

「本当に、もう、誰も居ないの?」
「探してみましょう」
呟きに、リュッセの優しい声。
頷いて、村を見てまわる。
無事なものは何一つ無い。
牢屋ですら壊されている。昨日の夜は、男の人が一人中に入れられていたのを見た。けど、そこにはもう随分長い間風雨にさらされていたとしか思えない骨が転がっているだけだった。
「何だろう」
チッタが、その骨の傍の壁を見る。
「何か書いてある……何だろ。えっと? 『生きているうちに オーブを渡したかったのに』?」
チッタはそこで立ち上がる。
「何か、心残りがあったんだね。……オーブが何かわからないけど……かわいそう、もっと早く来てあげられれば良かったのに」

ココは魔王の居場所から一番近い村。
多分、
たったそれだけの理由で、魔物に滅ぼされたんだ。
普通に暮らしていただけなのに。
夢を見て、元気に、
ただつつましく暮らしていたのに。

胸の奥の何かちりちりしたものが、一気にはじけていくような感覚。

私はただ、大声を上げて泣いていた。

何もできなかった。
間に合わなかった。
どうしようもなかったのかもしれない。
それでも悔しかった。

今までぼんやりとした輪郭しか無かった、
魔王に対する感情が、形をはっきりさせた。
やり場の無い怒り。
初めて感じる、憎しみ。

涙は次々あふれ出たし、しばらく泣き止むことはできなかった。

リュッセの静かな祈りの言葉が聞こえる。
風に乗って、村全体に広がっていく。
それは長い間続き、
空へと吸い込まれていった。


■人気投票終わりました。
当初は1位が100票とるまで、というつもりではじめたんですけど、予想外にも2日3日くらいで達成してしまい、いやそれはないやろ、ということで2位が、とか思っていたら1位と2位が「なんかの代理戦争ですか?」というほどの接戦アンドデッドヒートでして、すぐに100票にたどりついてしまったので、3位が100票とるまで、とか思いましたら、途中から3位と4位もデッドヒートをはじめまして、見ているこちらは「おいおいどうするよ」とか内心あせっておりましたら、ラッキーにも3位が100票とったとき、4位とちゃんと票差がありまして、まあ、よかったな、と。
しばらくしたらコメント返しをします。
参加してくださった方、有難う御座いました。

現在は唐突に思い浮かんだヘンリー君の話を書こうかなあ、とか思いつつそれより拍手だな、とか我に返る今日この頃です。
拍手は暑中見舞いだから、引き下げる時期はわりと早いのです。
……暑中見舞いっていつまで出せるんだっけ?
立秋? 盆まで?

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