■50回を過ぎてバハラタっていうのは遅いのか早いのか。
それでも予定表を見ると、結構早いスピードで進んでいる気もする。

さて、気のせいじゃないと良いんだが。

■バハラタ 1
鬱蒼とした森は随分長く続きそうだった。空からの光は弱々しく、密集した葉の間を何とか通り抜けてきている、という感じ。今は背中側に洞窟があるけど、数分歩けば多分自分が居る位置は正確に把握できなくなるだろう。足元は落ち葉が何層にも重なって、柔らかい。一番上に落ちた葉だけが、踏むと乾いた音を立てる。緑は深く、木には蔓が絡みついていたりする。カザーブまでの道にあった森や、エルフの隠れ里のあった森とは、また雰囲気が違っている。あちらは葉の細い尖った樹が多かったけど、こちらはなんか、全体的に大きい。葉も幹も、随分雰囲気が違う。
「さて、と」
カッツェが地図とコンパスを見比べて、暫くあたりを見渡した。とはいえ、どっちを見ても緑緑緑で、私には違いが分からない。
「とりあえず、まあ、南はあっちだ」
そういってカッツェは右手側を指差した。見えるのは緑の木々で、目印は何も無い。
「地図で言えば、南東方向に歩いていけば、いつか森を抜けて三角の平野の端っこに出る。正確にどの辺りなのかちょっとわからないが、ともかく平野に出てからも南東を目指しつつ行けば、いつか海岸線にたどり着くだろ」
「ちょっと投げやり」
チッタが肩をすくめる。
とはいえ、誰にも反対意見も、それ以上にいい提案もなく、私たちは森を抜けるべく南東方向に歩き始めた。

森は暫くの間続いた。森の中を歩く人はほとんど居ないのか、細い道すらない。時々獣道を見る程度で、相変わらず目印になりそうなものや、景色の変化は無かった。それでも森の終わりが見えてくると、空を覆っていた葉の重なりも薄くなって、太陽の光がしっかり差し込む明るい森にかわっていく。
「もうそろそろ森を抜けるよ」
あたりを警戒していたカッツェが地図を見る。もう木々の間からは、向こうに広がる草原が見え始めてきていた。
「出たら一回休憩しながら、場所を把握できないかしっかり地図と照らし合わせてみよう」
「遠くにでもいいから、街が見えたらいいねえ」
「街の名前なんでしたっけ? バハラタ?」
「あー、そんな名前だった気がする」
私たちは口々にそんな話をしながら歩く。
程なく森を抜ける。木々に阻まれて狭かった視界が一気に広がる。広がる草原と、照りつける太陽。森から出たばかりの私には、まぶしすぎる景色だった。それに何だか蒸し暑い。
「う、目が痛い」
私は手を目の上で庇のようにして、辺りを見る。草原の草は少し長く伸びていて、あちこちで黄色い小さな花が咲き乱れていた。空の色は淡い青。白い雲が草原に影を落としていた。
「いやあ、絶景ですね」
リュッセは笑うような声で言う。確かにコレまでとはまた違った景色が広がっている。
「さてと」
草原に円に座って、お互い顔を合わせる。
「これからも南東でいいのかな?」
地図を見てみたけど、目印になりそうなものが無いから、いまいち今どの辺りなのかが分からない。
「とりあえずは南東でいいだろう。街が見えてきたら東になるか南になるか、南南東になるか、とかあるかも知れないが、そのときはそのときだ」
「どんなところかな?」
カッツェとチッタが南東のほうを見る。今のところ、まだ街は見えない。
「少なくとも、黒胡椒が安い街ですよ。安くないと困ります」
「リュッセ君、今のは面白くない」
「ソレは失礼しました」

草原を再び南東へ進んでいく。抜け道をとおってからこっち、かなり魔物が強くなったから、結構歩くだけでも大変。それでも、死にそうな目にあわなくなっただけ、強くなったのかもしれない。そんなことを考えながら歩いているうちに、街が東側に見えてきた。思ってたよりは西寄りに歩いていたのかもしれない。私たちは西側から町の中に入った。
街は、草原を流れる川のほとりに細長く広がっていた。街の東西を石造りの大通りが走っている。街の南側に大きな川が東西に流れていて、「聖なる川」として街の人の憩いの場になっているそうだ。町の北側には教会やお店が並んでいて、南側には宿屋や集会所があるみたいだった。緑もあちこちにあって、花壇が作られている。とても綺麗な街だった。
街の人たちは少し変わった服を着ていて、男の人は白い上下にターバンの人が多い。女の人は鮮やかな色に染められたワンピースを着ている人が多かった。やっぱり蒸し暑いから涼しい服を着ているんだろう。
街の入り口にある宿に部屋を取ってからご主人に話を聞いてみると、やっぱりこの街は黒胡椒が沢山とれるので有名らしい。ただ、外国に沢山持っていくなら、街の人に対して胡椒をはじめとしたスパイスを取り扱っている小売店で買うより、問屋で買ったほうが多くを安く手に入れることができるだろう、ということだった。
「そういえば、どのくらいもってこいって聞かされてないよね」
「1粒だけ持って帰っても門前払いだろうけどね」
「まあ、ある程度の量は必要でしょう」
「どのくらいかな?」
「分けてもらえるだけ分けてもらう?」
「買占め?」
そんな話をしていたら、宿のご主人は見かねたのか、一回の料理に使う黒胡椒の量だとか、大体の値段を教えてくれた上、問屋の場所まで教えてくれた。
「家での保存法は分かるけど、輸送のときの注意点とかはわたしじゃ分からないから、問屋できくといいよ」
とまで教えてくれた。何だか申し訳なかった。


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テスが100票超えました。
いつの間に。
奴の何にみんなが惚れているのか正直判らない作者でございます。

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