目が覚めて、僕らはテラスから伸びる細い橋の前にいた。
橋の袂には、僕と同じ角をもった人の彫像がある。
しばらく見上げていたけど、何も変わったところはないから、そのまま手をつないで橋を渡った。
半分ぐらいわたったところで、突然橋が崩れ落ちた。
女の子が、落ちそうになる。
何とか女の子は橋にしがみついてくれたから、僕は一生懸命女の子を橋の上まで引っ張りあげた。
「こわかったね」
言ってみたけど、女の子は首を傾げただけだった。
橋を渡るしかなくて、僕らは先へ進む。
入り口の前には不思議に出っ張っている床があって、そこにたつと床が沈む。そして目の前にあったドアが開いた。
次の部屋は、太陽が差し込んでいて明るかった。鳥が床を歩いている。部屋は円形で、真ん中に僕の身長くらいの溝があった。溝には木で出来た橋みたいなものが渡されていて、向こうにいけるようになっていた。
ドアの前の床から離れると、床がでっぱって、その代わりドアがすごい音をたててしまった。
びっくりした。
部屋の中に進むと、また影が出てきた。
女の子の手をしっかり握ったまま、僕はまた持っていた棒で影を叩いて追い払った。
影はいつも、床に突然出来る影の渦から出てくる。
なんだか不思議な感じだった。
影を追い払って、僕らは木の橋を渡って次のドアの前まで来た。またドアの前には、出っ張った床があった。乗ると床が沈んで、ドアが開く。
ドアの外は小さなテラスで、どこにもいけなくなっていた。
女の子は僕の手をすり抜けて、元の部屋に戻っていった。
仕方がないから、僕も部屋に戻る。
ここで行き止まりかな。
もう駄目なのかな?
そう思っていたら、女の子がいきなり床の溝の所へ降りていった。
溝には大きな木箱があって、女の子はそれを指さす。
「い こ」
小さな声で、そういった。
「何? どうしたの?」
女の子は箱を指さしたまま。僕はその木箱のところまで下りた。
女の子は満足した顔で、溝から這い上がって鳥のほうへ歩いていく。
飛び立つ鳥をびっくりしたように見送って、また鳥のほうへ歩いていく。
鳥、好きなのかも。
僕は木箱を見た。
大きい。
棒で叩いてみたけど、別に何もない。
今度は木箱を押してみた。
思ってたより、ずっと軽い。
簡単に木箱は動いた。
木箱の下には、何かスイッチみたいなのがあって、部屋が突然大きな音とともに少し振動し始めた。
「??」
僕は部屋の中を見渡す。
壁に沿って、木で出来た箱が次々現れてきた。揺れが収まると、壁沿いに登れる階段が出来ていた。
僕はぽかんと階段を見上げる。
「君、これ教えてくれてたの? ありがとう」
僕は手を差し出す。女の子は手を握った。
「行こう」
階段を登って、次の部屋にたどり着く。
今度は黒い石で出来た部屋で、薄暗かった。
僕らがついたのは、部屋の中二階みたいな細い廊下で、左手側にドアがあった。
部屋自体は広い。僕はこの段差から降りられるけど、女の子は無理そうだった。
「まってて、僕、このドア開けてくる」
声をかけて、僕は段差を降りた。
ドア側のほうへ回ると、のぼり階段があって、ドアまで続いていた。
ドアノブを握ってみたけど、鍵がかかっていてあかない。
僕は部屋を見回した。
部屋の向こう側には鎖があって、それが怪しい。
そっちの方向へ走っていって、僕は鎖を引いた。
低い音がしてドアが開く。
それとともに影の渦が床に現れた。
影が来る!
僕はあわてて振り返る。
女の子のところに、もう影がいた。
僕は慌ててドアの方へ走る。
ドアに続く階段の下にも、影の渦があった。
女の子は影に抱えられてその渦の中に引きずり込まれそうになっていた。
僕はともかく手を伸ばす。
女の子を引っ張り出すと、そのまま手を引いて広いほうへ走った。
影を棒で叩く。
逆に叩かれて床に叩きつけられてしばらく動けなかった。
その間にまた女の子が連れて行かれる。
駄目だ。
おきなきゃ。
何とか起き上がると、女の子を抱え込んでいる影の足を叩く。
影は一瞬形を保てなくなって、女の子は床に落ちた。
「来て!」
腕をつかんで、広いところに逃げる。
何度かそんなことを繰り返すと、ようやく影はあきらめたのか渦ごと消えていった。
僕らは部屋を後にした。
外に出る。
明るいけど、ちょっと風が強い。手すりも何もないテラスだった。
落ちたらどうしようもないから、僕らは手をしっかり握りなおす。
「どっちへ行くのかな?」
女の子に聞いてみたけど、やっぱり返事はなかった。
その代わり、また影が出てきた。
どうも影は、僕らが新しいところに出るたびに出てくるみたいだ。
影の渦は、また二つ。
僕は女の子の手をしっかり握ったまま、走り回って影を叩いた。
女の子はしんどいかもしれないけど、連れて行かれるより、きっといい。
随分時間がかかったけど、影を追い払った。
「疲れたね」
僕は声をかけて座る。
女の子も同じようにテラスに座った。
しばらく休憩して、僕らはまた歩き出す。
はしごを降りたところに、トロッコとレールがあった。
レールは随分長く続いている。
「これ、乗ろう」
僕は声をかけると、女の子と一緒にトロッコに乗った。
レバーを押すと、トロッコは動き出した。
「うわ、早い!」
思わずレバーを戻す。
トロッコは止まった。
レールがどうなっているかわからないから、僕はトロッコを少し動かしては止まるという動作を繰り返した。
トロッコは、レールの終点まで問題なく動いた。
レールの終点には、小さなはしごがあって、上に登れるようになっていた。
登っていくと、お城の外廊下のようなところに出た。
手を握り合って進んでいくと、廊下が大きく崩れていた。
その向こうに、まだ廊下は続いている。
僕はその崩れたところを飛び越えた。
「おいでよ」
声をかけて腕を伸ばす。
女の子は少し困ったような顔をして、それから覚悟を決めてその崩れたところを跳ぶ。
少し足りなかった。
何とか壁にしがみついてくれたから、僕は女の子を引っ張りあげた。
女の子は、僕ほど跳べないし、段差だって落ちられない。それをちゃんと覚えておいたほうがいいなって思った。
廊下を進んでいくと、廊下は唐突に終わった。
向こうにテラスみたいなのが見える。壁は続いていて、なにかパイプのようなものがこの廊下から向こうのテラスまで続いていた。
下を覗き込んでみたけど、ただ霧があるだけでどうなっているのかわからない。
石を投げてみたら、どぷん、という深い音が響いた。
下から行くのは無理だ。
「待ってて、向こう、見てくる」
僕は女の子に言うと、壁のパイプにぶら下がってみた。
丈夫なパイプで、そのまま向こうまでいけそうだ。
慎重にテラスまで渡る。
テラスにはレバーがあった。
引いてみると、クレーンが動いて、女の子のほうへ向かう。
クレーンのもとあったほうは、広場になっていた。
これを使えば、僕も女の子も広場に出られるかも知れない。
僕はパイプを伝って、元の場所に戻る。
「このクレーンに乗って?」
僕は女の子をクレーンに乗せると、またスイッチまで戻る。
スイッチを動かすと、クレーンは思ったとおり広場のほうへ動いていった。
女の子がクレーンの上でしりもちをついた。
僕はどうやったらいいかな?
テラスを出ると、壁に段差がついていた。
それをよじ登るとテラスの屋根に出られた。
クレーンの支柱を渡って、鎖を伝って降りるとクレーンの女の子と落ち合うことが出来た。
ただ。
広場とクレーンの間には結構な隙間があった。
僕は飛び越えられたけど、女の子は首を横に振った。
しばらく色々していたら、女の子は一番隙間の狭いところを選んで飛び越えてきてくれた。
「行こう」
僕は手を差し出した。
■クレーンから、二回落ちました。
ボンソワールは何が不満なのか、なかなかクレーンから降りてくれなくて困りました。
もっと進んでるんですけど、ここまで。
もちろん、本当は女の子の名前も、もう知ってます。
あえてボンソワールと呼ぶ。
橋の袂には、僕と同じ角をもった人の彫像がある。
しばらく見上げていたけど、何も変わったところはないから、そのまま手をつないで橋を渡った。
半分ぐらいわたったところで、突然橋が崩れ落ちた。
女の子が、落ちそうになる。
何とか女の子は橋にしがみついてくれたから、僕は一生懸命女の子を橋の上まで引っ張りあげた。
「こわかったね」
言ってみたけど、女の子は首を傾げただけだった。
橋を渡るしかなくて、僕らは先へ進む。
入り口の前には不思議に出っ張っている床があって、そこにたつと床が沈む。そして目の前にあったドアが開いた。
次の部屋は、太陽が差し込んでいて明るかった。鳥が床を歩いている。部屋は円形で、真ん中に僕の身長くらいの溝があった。溝には木で出来た橋みたいなものが渡されていて、向こうにいけるようになっていた。
ドアの前の床から離れると、床がでっぱって、その代わりドアがすごい音をたててしまった。
びっくりした。
部屋の中に進むと、また影が出てきた。
女の子の手をしっかり握ったまま、僕はまた持っていた棒で影を叩いて追い払った。
影はいつも、床に突然出来る影の渦から出てくる。
なんだか不思議な感じだった。
影を追い払って、僕らは木の橋を渡って次のドアの前まで来た。またドアの前には、出っ張った床があった。乗ると床が沈んで、ドアが開く。
ドアの外は小さなテラスで、どこにもいけなくなっていた。
女の子は僕の手をすり抜けて、元の部屋に戻っていった。
仕方がないから、僕も部屋に戻る。
ここで行き止まりかな。
もう駄目なのかな?
そう思っていたら、女の子がいきなり床の溝の所へ降りていった。
溝には大きな木箱があって、女の子はそれを指さす。
「い こ」
小さな声で、そういった。
「何? どうしたの?」
女の子は箱を指さしたまま。僕はその木箱のところまで下りた。
女の子は満足した顔で、溝から這い上がって鳥のほうへ歩いていく。
飛び立つ鳥をびっくりしたように見送って、また鳥のほうへ歩いていく。
鳥、好きなのかも。
僕は木箱を見た。
大きい。
棒で叩いてみたけど、別に何もない。
今度は木箱を押してみた。
思ってたより、ずっと軽い。
簡単に木箱は動いた。
木箱の下には、何かスイッチみたいなのがあって、部屋が突然大きな音とともに少し振動し始めた。
「??」
僕は部屋の中を見渡す。
壁に沿って、木で出来た箱が次々現れてきた。揺れが収まると、壁沿いに登れる階段が出来ていた。
僕はぽかんと階段を見上げる。
「君、これ教えてくれてたの? ありがとう」
僕は手を差し出す。女の子は手を握った。
「行こう」
階段を登って、次の部屋にたどり着く。
今度は黒い石で出来た部屋で、薄暗かった。
僕らがついたのは、部屋の中二階みたいな細い廊下で、左手側にドアがあった。
部屋自体は広い。僕はこの段差から降りられるけど、女の子は無理そうだった。
「まってて、僕、このドア開けてくる」
声をかけて、僕は段差を降りた。
ドア側のほうへ回ると、のぼり階段があって、ドアまで続いていた。
ドアノブを握ってみたけど、鍵がかかっていてあかない。
僕は部屋を見回した。
部屋の向こう側には鎖があって、それが怪しい。
そっちの方向へ走っていって、僕は鎖を引いた。
低い音がしてドアが開く。
それとともに影の渦が床に現れた。
影が来る!
僕はあわてて振り返る。
女の子のところに、もう影がいた。
僕は慌ててドアの方へ走る。
ドアに続く階段の下にも、影の渦があった。
女の子は影に抱えられてその渦の中に引きずり込まれそうになっていた。
僕はともかく手を伸ばす。
女の子を引っ張り出すと、そのまま手を引いて広いほうへ走った。
影を棒で叩く。
逆に叩かれて床に叩きつけられてしばらく動けなかった。
その間にまた女の子が連れて行かれる。
駄目だ。
おきなきゃ。
何とか起き上がると、女の子を抱え込んでいる影の足を叩く。
影は一瞬形を保てなくなって、女の子は床に落ちた。
「来て!」
腕をつかんで、広いところに逃げる。
何度かそんなことを繰り返すと、ようやく影はあきらめたのか渦ごと消えていった。
僕らは部屋を後にした。
外に出る。
明るいけど、ちょっと風が強い。手すりも何もないテラスだった。
落ちたらどうしようもないから、僕らは手をしっかり握りなおす。
「どっちへ行くのかな?」
女の子に聞いてみたけど、やっぱり返事はなかった。
その代わり、また影が出てきた。
どうも影は、僕らが新しいところに出るたびに出てくるみたいだ。
影の渦は、また二つ。
僕は女の子の手をしっかり握ったまま、走り回って影を叩いた。
女の子はしんどいかもしれないけど、連れて行かれるより、きっといい。
随分時間がかかったけど、影を追い払った。
「疲れたね」
僕は声をかけて座る。
女の子も同じようにテラスに座った。
しばらく休憩して、僕らはまた歩き出す。
はしごを降りたところに、トロッコとレールがあった。
レールは随分長く続いている。
「これ、乗ろう」
僕は声をかけると、女の子と一緒にトロッコに乗った。
レバーを押すと、トロッコは動き出した。
「うわ、早い!」
思わずレバーを戻す。
トロッコは止まった。
レールがどうなっているかわからないから、僕はトロッコを少し動かしては止まるという動作を繰り返した。
トロッコは、レールの終点まで問題なく動いた。
レールの終点には、小さなはしごがあって、上に登れるようになっていた。
登っていくと、お城の外廊下のようなところに出た。
手を握り合って進んでいくと、廊下が大きく崩れていた。
その向こうに、まだ廊下は続いている。
僕はその崩れたところを飛び越えた。
「おいでよ」
声をかけて腕を伸ばす。
女の子は少し困ったような顔をして、それから覚悟を決めてその崩れたところを跳ぶ。
少し足りなかった。
何とか壁にしがみついてくれたから、僕は女の子を引っ張りあげた。
女の子は、僕ほど跳べないし、段差だって落ちられない。それをちゃんと覚えておいたほうがいいなって思った。
廊下を進んでいくと、廊下は唐突に終わった。
向こうにテラスみたいなのが見える。壁は続いていて、なにかパイプのようなものがこの廊下から向こうのテラスまで続いていた。
下を覗き込んでみたけど、ただ霧があるだけでどうなっているのかわからない。
石を投げてみたら、どぷん、という深い音が響いた。
下から行くのは無理だ。
「待ってて、向こう、見てくる」
僕は女の子に言うと、壁のパイプにぶら下がってみた。
丈夫なパイプで、そのまま向こうまでいけそうだ。
慎重にテラスまで渡る。
テラスにはレバーがあった。
引いてみると、クレーンが動いて、女の子のほうへ向かう。
クレーンのもとあったほうは、広場になっていた。
これを使えば、僕も女の子も広場に出られるかも知れない。
僕はパイプを伝って、元の場所に戻る。
「このクレーンに乗って?」
僕は女の子をクレーンに乗せると、またスイッチまで戻る。
スイッチを動かすと、クレーンは思ったとおり広場のほうへ動いていった。
女の子がクレーンの上でしりもちをついた。
僕はどうやったらいいかな?
テラスを出ると、壁に段差がついていた。
それをよじ登るとテラスの屋根に出られた。
クレーンの支柱を渡って、鎖を伝って降りるとクレーンの女の子と落ち合うことが出来た。
ただ。
広場とクレーンの間には結構な隙間があった。
僕は飛び越えられたけど、女の子は首を横に振った。
しばらく色々していたら、女の子は一番隙間の狭いところを選んで飛び越えてきてくれた。
「行こう」
僕は手を差し出した。
■クレーンから、二回落ちました。
ボンソワールは何が不満なのか、なかなかクレーンから降りてくれなくて困りました。
もっと進んでるんですけど、ここまで。
もちろん、本当は女の子の名前も、もう知ってます。
あえてボンソワールと呼ぶ。
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