■というわけで、最終回です。

■グランバニア 2 (テス視点)
ボクらは揃って、三階の王の間をめざす。
階段を登りきって、庭のまわりを通る回廊にでた。
太陽は柔らかい光であたりを照らしていて、風は春特有の少しぼんやりした暖かさで吹き抜けていく。その風にのって桜の花びらが運ばれていった。
中庭にはドリスちゃんがいて、お祭りの時用のレースがいっぱい使われたピンクのドレスを来ている。
「あ! お姉ちゃん」
マァルが走りよっていくと、ドリスちゃんは鼻にしわを寄せる笑い方をして、「おう!」と返事をしてVサインをした。
「おかえり。遂にやっちゃったな」
言って、ソルとマァルの頭をぐちゃぐちゃと撫でる。
「ぼくら頑張ったもん」
「そうだな」
ドリスちゃんは次にビアンカちゃんを抱き締めた。
「ビアンカ様が無事でよかった」
「ありがとう。ドリスちゃんにまた会えてよかったわ。また仲良くしてね」
「勿論勿論! こちらこそ」
ドリスちゃんはビアンカちゃんの両手を上下に振りながら、頷いた。
それから深呼吸してボクを見る。
「父のオジロンから聞いたわ。王さまたちが魔界の王をやっつけたんだってね」
「どうしたの? 急に」
いつにない話し方にボクは思わずドリスちゃんを見る。
「口の悪さなおすキャンペーン中なんだよ」
「なおってないなおってない」
「煩いなぁ……なーんて本当は王さまにこんなクチのききかたしちゃいけないのよね」
ドリスちゃんは苦い顔でコメカミを押さえる。かなり苦戦しているらしい。
正直似合わないから、なおすのをやめてもいいと思うけど、本人がやる気なんだから言わないでおいた。
「なおしたほうが良いとは思うけど、無理しなくても良いと思うわよ? ドリスちゃん、そのままで十分可愛いし素敵よ」
ビアンカちゃんは、ドリスちゃんの頭を優しく撫でた。
「なおしたほうがいいかなって思って……でもこういうのってなかなかなおらなくて……」
「ま、ゆっくりでいいんじゃない?」
ボクが答えると、ドリスちゃんはため息をついた。
「まぁ、適当にやるさ」
諦めたような口調で言うと、ドリスちゃんは肩をすくめる。それから中庭の奧のほうに歩きだす。
「もう王の間には皆集まってるぞ、早く行ってやれよ」
そしてボクらから十分離れたところで振り返って言う。
「テス王ステキよ」
ボクは思わず笑った。
「ドリスちゃんもね」
答えて、ボクらは中庭をあとにする。

途中でビアンカちゃんが立ち止まった。
「ねえテス……。私あなたにめぐりあえたこと、本当に心から神さまに感謝してるわ。絶対に私の前からいなくならないでね。私のこと絶対にはなさないで……」
ボクはビアンカちゃんの顔を覗き込んで笑った。
「ボクもビアンカちゃんに巡り合ったこと、神様に感謝するよ。神様がプサンさんだと思うとちょっとアレなんだけど……。ずっと一緒にいようね、今まで以上に仲良くいようね」
「うん、約束よ? さあ行きましょ……テス」
「約束するよ」
ボクはビアンカちゃんの腕をかるく持って、王の間につづく扉にむかう。ソルとマァルは後ろから着いてきていた。
扉の前ではサンチョが待ってくれていて、ボクらに気付いて深く頭を下げた。
「ぼ……坊っちゃん、いえテス王! お帰りなさいませ! この度のご活躍このサンチョどれほどうれしかったことか……。その昔先代パパス王とまだ赤ン坊だったテス王を連れてこの城を出たとき……。まさかこんな日が来ようとは夢にも……。うっうっうっ……。さあテス王、皆が待ちかねていまぞ」
途中で泣きながらも、サンチョはボクらを先導するように扉をあける。
「サンチョは泣き虫だなあ」
ソルが笑う。
「パパスお爺様、サンチョのこともちゃんと見まもってるよね」
マァルはボクを見た。ボクはうなずく。
「勿論だよ」

王の間にはオジロン様をはじめ、主だった貴族や兵士が沢山ボクらを待ってくれていた。
彼らは口々に祝福と感謝のことばをのべた。その間をボクらは胸を張って歩いた。一度部屋に戻って、パーティー用の盛装をする。ビアンカちゃんは薄い水色のドレスで、とても良く似合っていた。
「素敵だよ」
「テスもね」
ボクらはゆっくり階段をおりて、そして二人で座っても余裕がある玉座にビアンカちゃんと二人で座る。ソルとマァルはその両脇にたった。
拍手ののち、ゆっくりと華やかなワルツが演奏される。
その場にいた人たちは、お互い手をとって踊りはじめた。
オジロン様は奥様と踊る。
サンチョはシスターと踊りはじめたみたいだ。
いつのまにか王の間に来ていたドリスちゃんが引っ張りだして踊り始めた相手は、プサンさんみたいだ。神様と踊ってるなんてドリスちゃんは思ってないだろうけど。
ボクは立ち上がるとビアンカちゃんの手をとる。
「踊ってくれませんか?」
軽く足をまげて誘うと、ビアンカちゃんは笑った。
「踊れるの?」
「王様たるもの、踊りくらいできなきゃね。……冬の間に練習したんだ。まあ、ワルツしかできないんだけどね」
「テスらしい」
「……踊っていただけますか?」
「喜んで」
微笑むビアンカちゃんの手に軽くキスをして、ボクはビアンカちゃんと部屋の真ん中に進む。
ソルとマァルも手を取り合って踊り始める。
部屋のなかを暖かい春の風が吹き抜けていく。桜の花びらが舞った。
今頃妖精の国ではポワン様が春風のフルートを吹いて、妖精たちが花を運んでいるんだろう。

二人でゆっくり踊りながら、ボクはこれまでの色んな事を思い出す。

お父さんと船で港に戻って、サンタローズに帰った日のこと。
レヌール城のおばけを退治して、アルカパから帰る時ビアンカちゃんにリボンをもらった別れの日のこと。
さらわれたヘンリー君をお父さんと助けに行った時のこと。
結婚式、みんなに祝福された時の、嬉しかった最高の気持ち。
子どもたちが産まれた時の感動。
沢山、思い出す。

ビアンカちゃんは踊りながら微笑んだ。

どこからともなくふしぎな声が聞こえた気がして、ボクは天井を見る。

見てください あなた。子どもたちの あの幸せそうな顔を。

ああ 見ているとも

私たちの子供は 私たちがかなえられなかった夢をかなえてくれたようだ。

さあ こっちへおいで。

はい あなた…

ボクは幸せな気持ちになって、ビアンカちゃんを抱き締めた。
「聞こえた?」
「うん」
「負けてられないね」
「そうね」
ボクはビアンカちゃんにキスをして、ワルツの続きをおどる。
華やかな踊り。
きっとこれからも、ずっと華やかに世界はつづいていく。

ずっと平和に。
ずっと明るく。
ビアンカちゃんと一緒に。


■最後はどう終わるか、ちょっと悩みました。
旅はこれでおわりだけど、テっちゃんの人生はビアンカちゃんやソル・マァル、魔物ちゃんたち、城の皆とずっと続いていくわけです。
だから、明るくこれからの毎日がんばるぞーって感じにしたいな、と。
そして嫁ラヴ、と。
そういう風にしたいなと思いましてこうしました。

というわけで、これでテスの旅はオシマイです。
長い間アリガトウございました。

とはいえ、実はもうちょっとだけ。
クリア後のお楽しみ・若き日のパパスとマーサの駆け落ち編を書きたいと思ってます。
もう暫く、気になる方はお付き合いください。

追記
最終回記念人気投票始めました。
期限は1ヶ月。4月1日が締め切りです。
詳しくはページで見てみてください。
http://vote2.ziyu.net/html/zum_sieg.html

コメント

nophoto
ニックネーム無し
2006年3月1日23:50

完結おめでとうございます!
281回にわたる大長編、本当にお疲れ様でした。

個人的に、マァルとテスの父娘のやりとりがとても好きでした。本編中のテスのセリフから10年後(?)とかにコリンズが恋のお相手として参戦してきたらどうなっちゃうんだろ、と想像したりして(笑)
マァルの男性の基準がテスやソウルだと思うと、ちょっと相手は前途多難かもしれませんね(笑)
ではでは、お体を大切に、これからも頑張ってください。

Rei
Rei
2006年3月2日3:51

最終回、お疲れ様でしたー。

実際、私が読み始めたのは途中からだったのですが、
それからは毎回読んでましたよ(’’*
懐かしかったですww
後日、暇をみつけて過去のも読んでみたいと思ってます☆

でわでわお疲れ様でした〜♪

こーき
こーき
2006年3月2日18:01

>ニックネームなしさま
ありがとうございます。うっかり気付けば281回書けたことに自分が一番驚いています。

マァルとテスのやりとりは、自分でも結構気に入ってます。
きっと10年後、コリンズくんはグーで殴られたりします。……そのまえにマァルに振られるかも知れませんけどね(笑)ともかく、彼女の恋人候補は全員痛い目にあうと思います。原因不明で(笑)

さて、これからどうしましょう。とりあえず駆け落ち編がんばります。

>Rei様
日記リンクの方に読んでもらっているのがわかると、なんだかものすごーく恥ずかしいのは何故でしょう(笑)
毎回目をとおしていただいたそうで、恐縮です。ありがとうございます。
過去の……もう自分でも何を書いたか忘れているので、ちょっとドキドキです。

ともかく、長い事読んでいただいてありがとうございました。

nophoto
2006年3月3日21:21

素敵な終りでした!思わず涙してしまうほど…。
テっちゃん、楽しませていただきありがとうございました!

こーき
こーき
2006年3月3日21:23

>柳さま
素敵と言っていただいて嬉しいです。
でも涙は勿体無いので、もっといいときに流してください(笑)
「楽しんでもらえて、うれしいよ」とテスも申しております。

お気に入り日記の更新

日記内を検索