■本日は二部構成です。
単純に長くなったので。

最終回は281回。
きりがわるい。

■グランバニア 1 (テス視点)
山々の間に、グランバニアの城の尖塔が見えてきた。山は桜の色に所々染まっていて、喜んで笑っているように見えた。
「お城が見えると、帰ってきたーって感じがするわね」
ビアンカちゃんは明るい声で言って笑う。
「ご馳走いっぱいあるかなあ?」
ソルは言ったとたん、お腹をぐーっと盛大にならす。ボクらは思わず声をたてて笑った。

マスタードラゴンの背をおりて、胸を張って城門を開く。
門番が「おかえりなさいませ!」と張りのある声で挨拶し、敬礼した。
「城下町はずいぶんにぎやかだね」
声をかけると、門番は背をのばす。
「平和を勝ち取った宴です!」
「ご馳走ある?」
ソルが聞くと門番は苦笑してから、大きくうなずく。
「勿論ございますよ、殿下」
それを聞くと、ソルはそわそわと体を揺する。
「お父さんっ! 早く行こう!」
「もうソルっ みっともないー!」
マァルが頬を染める。
ボクは笑った。
「お腹すいたら男の子はこんなモンだよ」
それからソルを見る。
「先に行っていいよ」
「本当!?」
ソルは顔を輝かせて、マァルの手を引いて走りだす。
「私たちも行きましょ?」
ビアンカちゃんはボクの手をひく。
「うん、いこうか」

城下町は華やかに飾られていて、食べ物や飲み物が振る舞われている。みんなお酒が入ってるんだろう、赤い顔で陽気に歌ったり騒いだりしている。
その中をボクはビアンカちゃんと手をつないで歩く。街行く人たちはニコニコとボクらを見ては、口々に祝福やお礼をのべていく。
「みんな幸せそうねー、頑張ってよかったね」
「うん」
ボクらは渡された飲み物を飲みながら、歩く。町の中心では、沢山の人が笑いながら踊ったりしている。その中にホイミンやスラリンも交じっていた。ゲレゲレはその輪からはずれて、少し暇そうに寝そべっていた。
「ゲレゲレー」
ビアンカちゃんはゲレゲレに駆け寄って、その喉を撫でる。ゲレゲレは、ごろごろと喉をならした。ボクの時は絶対そういうのしないのに。
「ゲレゲレも今までよくがんばってくれたわね。えらかったわ」
しゃがんで、ゲレゲレの背を撫でながら、ビアンカちゃんはゲレゲレを労るように背を撫でた。
「魔王倒してから、みんな見なかったから消えちゃったのかって心配してたの」
ボクを見上げてビアンカちゃんは微笑む。ボクは頷いた。
「みんな無事でよかった」
踊りの輪を見てみると、ピエールが女の子たちに誘われていて、それを必死に断っているのが見えた。
「ピエールモテモテね」
ビアンカちゃんは笑う。
「テスも誘われてもああして断ってね」
「……わかってるよ」
「即答しなさいよ」
ビアンカちゃんは笑いながら、ボクの足をぎゅーっと踏んで、そのまま先に歩いていってしまう。ボクは慌ててあとを追い掛けた。
とはいえ、ビアンカちゃんが本気で怒っていないのは分かるから、つかず離れずくらいの距離でゆっくり後ろをついていく。
しばらく歩いていくと、ビアンカちゃんはお酒を飲んでるおじさんに声をかけられた。
「ビアンカ様はいつ見てもお綺麗だし、今日は酒もうまいし、言うことなしですよ! ああ、ビアンカ様は本当にお綺麗だ」
ビアンカちゃんは言われて頬に手を当てて照れて、「おじさんったら、お上手ね」なんて言っておじさんの腕をかるくたたく。それからボクを振り返って言う。
「ねえ聞いた!? 今の人の話ちゃんと聞いた!? ちゃんと聞いてないならもう一度聞いてよ!」
「聞いてたよ」
ボクはビアンカちゃんの目を覗き込む。
「ビアンカちゃんは綺麗だし、あのおじさんが浮かれる気持ちは分かるけど」
ボクはビアンカちゃんの耳元でささやく。
「ビアンカちゃんが誉められるのはうれしいし、ビアンカちゃんがそれで喜ぶ気持ちも分かるけど……なんかムカっとくるのは何でかな」
ビアンカちゃんがボクの顔を見てにこりと笑う。
「さっき即答しなかったの、許したげる」
「それはありがとう」

そんな話をしていると、ソルとマァルが走ってきた。どこかで貰ったのか、二人とも手に綿飴をもっている。
「お父さん! こっち来て!」
「どうしたの?」
「いいから!」
ソルとマァルはボクとビアンカちゃんの手を引いて歩きだす。
広場の奥ではお酒を飲んでべろべろな人か多くなってくる。そんな一角で、そのヒトは陽気に笑っていた。
「わっはっはっはっ。人々のよろこぶ姿はいつ見てもよいものだな。どれ……もう一杯」
ちょびヒゲのおじさんは気持ち良さそうにジョッキのビールを飲み干した。

……まさか、いいの?

色々なことが頭をよぎっていく。
「私がだれかだって? テスまだわからないか? 私だよ。プサンだよプサン。やはり人間というのはいいものだなあ……」
ボクは脱力した。
「いや、分かりますけどね……今頃天空城でみんな泣いてますよ」
「プサンさんまたやっちゃったんだ……」
「プサンさん、本当は人間に生まれたかったのかな?」
ソルとマァルはこそこそと話し合う。ビアンカちゃんはボクの服の裾をひっぱった。
「わ……私は初めて見たけど……今の人がマスタードラゴン様なの? 天空の人たちがあんなにあわててた意味がようやくわかったわ…」
「でしょ? 悪い人じゃないんだけど、なんか色々遣り切れないよね」
マスタードラゴンは、いや、プサンさんは陽気に笑いながらお酒を飲み続ける。
「人々が喜ぶ姿は本当にいい。力がみなぎるようですよ」
ニコニコしてプサンさんは細めた瞳で辺りを見回した。
「本当はあんまり酔ってませんね?」
「この程度ではね。……しばらく滞在しますから、よろしくお願いしますね、テスさん」
「さっさと帰らないと天空城の正門締め切られますよ」
「あっはっは、そうなったらグランバニアにずーっと住まわせてくださいね」
「いやです。祭りが終わったらかえってください」
「えー」
「えー、じゃなく。仕事しなさい、仕事。二十年以上さぼったんだから取り返しなさい」
「テスさんは厳しいですね」
「プサンさんが杜撰なんですよ」
「このくらいが丁度いいんですよ。私は世界を見守るのが仕事なんでね」
言うと、プサンさんは広場の入り口をみた。
「皆さんお待ちみたいですよ。そろそろ行ったほうがよさそうです」
「分かりました」
ボクはプサンさんを見る。
「居つかないでくださいね」
「前向きに検討します」
プサンさんは笑う。
これは暫く居座られそうだ。
ボクは諦めて肩をすくめると、プサンさんに笑って見せた。


■ついにグランバニアです。
プサンさんは、きっと長い間居座って、城の皆から「カレは誰なんですか?」とか聞かれるようになってテっちゃんは困るんだと思います。

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