■アプリ。
当初は可愛く思えなかったベビーサタンが、可愛い気がしてきました。
慣れってやつでしょうか。
 
■お母さんとお父さん (ソル視点)
お父さんがラインハットに出かけていったのは昨日で、今日は帰ってくる日。
お母さんは朝から何だかそわそわしていて、誰かがドアをノックするたび、ドアを見てはお父さんじゃないからガックリするっていうのを繰り返してる。

なんか、そういうお母さんは可愛いと思う。

「ねー、いつ帰ってくるのかなあ?」
お昼が過ぎて、お母さんとマァルとぼくの三人でおやつを食べているときに、お母さんは口を尖らせながら言った。
「遅すぎない?」
「んー、お父さんはラインハットに行くと、いっつも帰ってくるの遅いよ?」
「夕方くらいじゃないかなあ?」
ぼくらが言うと、お母さんは頬杖をついてため息をついた。
「おっそいなあ」
お母さんは頬杖をついたまま、足をぶらぶらと揺らした。ずっと窓の外を見ていて、退屈そうにしている。
「そんなに心配要らないよ?」
ぼくがお母さんに笑いかけると、お母さんは「うーん」と気の無い返事をした。
「ちょっとね、心配なのよねー」
お母さんはそういうと、テーブルに突っ伏す。
「どうして?」
マァルが首を傾げると、お母さんはテーブルに倒れこんだままの格好で「魔物の皆を連れて行ったでしょ?」とぼそぼそと言う。
「でも、珍しい事じゃないよ?」
「うーん……それとね」
お母さんはテーブルから体を起こす。
「それと……テスは私に『バイバイ』って言ったの」
凄く不安そうな顔で、窓の外を見る。
「あんなの、言われたの初めて。……テスは……魔物の皆も連れて行ったでしょ? 一人で、どこかへ行くつもりなんじゃないかしら」
「え!?」
「えぇえ!?」
ぼくとマァルはビックリしてお母さんを見る。
「テスは真顔で嘘がつけるから……今度行くところは、魔界なんでしょ? マーサお婆様は『来ちゃ駄目』って言ったのよね?」
「うん、お婆様、そう言った。ぼくでは魔王に勝てないって」
「わたし、お婆様ともっとお話したいのに」
「……来ちゃ駄目なんて言われてる所へ、私たちを連れて行きたくないのかもしれない。テスは……帰ってくるって言ったけど、嘘かも知れない」
お母さんは心細そうに言うと、また窓の外を見た。
ぼくやマァルもつられて窓の外を見る。
晴れていて、少し霞んだ青い空が広がっている。
「……とはいっても、ラインハットまで行く方法も無いしね。私たちに出来るのは、信じて待つことくらいよね」
お母さんは自分に言い聞かせるようにして、頷いた。
「ラインハット、いけるよ?」
マァルがお母さんを見る。
「え?」
「わたし、ルーラの呪文使えるの。いつもお父さんが唱えてくれるから、あんまり使わないけど……」
「そうなの?」
「うん。ラインハットは行った事があるから、大丈夫」
「……ねえ、お母さん、お父さんを迎えにいこうよ」
ぼくはお母さんを見上げた。お母さんはぼくをみてにっこり笑う。
「そうね。迎えにいってビックリさせよう」

 
お母さんはぼくらを連れてオジロン様のところへ向かった。それからお父さんを迎えに行くって話をする。
オジロン様は暫く渋い顔をしていたけど、最後にはしぶしぶ頷いた。
「早く帰ってきてくださいよ?」
オジロン様は恨めしそうな顔でお母さんを見る。お母さんは何度も頷いてにこにこ笑ってた。

それから、マァルの魔法でボクらはラインハットの町外れに向かった。
お母さんはラインハットに来るのは初めてって言って、ちょっと珍しそうにあちこちに視線を送ってる。楽しくて仕方ないらしい。ぼくとマァルの手を引いて、スキップするみたいな歩き方をしていた。
お父さんとは何回か手をつないで歩いたけど、お母さんとは初めて。時々、街を歩いていく人がぼくらを見るのがちょっと照れくさかった。
城門が近付いてくる。
見慣れた馬車がある。お父さんは馬車のほうを向いていて、ぼくらには背を向けていた。ラインハットのお城の人達は、お父さんの「連れ」が魔物だって知ってるから問題ないけど、さすがに街の人達は知らないから、もう全員が馬車の中にいるみたいだった。
「脅かしちゃおう」
お母さんがいたずらっ子みたいな顔をして笑う。
ぼくらは頷いて、足音を立てないようにゆっくりとお父さんに近付いた。

「えー!!」
馬車の中からスラリンの声が聞こえて、ぼくらは思わず立ち止まる。
「え、え、ソレって本気で言ってるのか!?」
「本気だよ」
お父さんはスラリンの言葉に頷いている。
「でも、でも、ソレって良いのか!?」
「良いとか良くないとか関係ないの。決めたの」
「決めたって……」
お父さんの言葉に、今度はピエールが少し呆れたような声をあげた。
一体何の話をしてるんだろう。
「しかし、それではビアンカ殿が納得しないでしょう」
「納得しないだろうから置いてきたんでしょ?」
お父さんのその言葉に、お母さんの顔が引きつった。
「皆には悪いと思うけどさ、リスクを背負うのはボクだけで十分だよ。……帰ってこられないかもしれないんだよ? 折角助かったばっかりなのに、連れて行けないよ。子どもたちだって、あんなに楽しそうだった。ちゃんと子どもの顔してるの、ボクは初めて見た。……ボクの都合で取り上げられないよ」
「……それでお前さんは平気なのか?」
「平気じゃなくても、やらなきゃいけないの」
マーリン爺ちゃんの声に、お父さんは答える。

お父さんは、お母さんが言ったとおり、ぼくらを置いていくつもりだ。
グランバニアに戻らないで、魔界に行くつもりだったんだ。
くらくらした。
背中が凄く冷たい感じ。
考えた事なかった。
お父さんが、また居なくなるなんて。

「……っ!」
お母さんが息を短く吸った。すっごく怒った顔をしてる。
そのままつかつかとお父さんに近寄っていく。
それからお父さんの前に回りこんで、いきなり思いっきりお父さんの頬に平手打ちしていた。
お父さんはいきなりお母さんが現れてビックリしてるみたいで、叩かれた左の頬を押さえて呆然とお母さんを見ていた。
「え? あれ? 何で?」
「何でじゃないでしょ!?」
お母さんはそのままお父さんの胸倉をつかむ。
「よくもまあ、やってくれたわね! 置いていく!? この私を!? 子どもたちを!? 漸く家族全員揃ったこのときに!?」
「ど、どっから聞いてたの?」
「そんなのは問題じゃない!」
お母さんはお父さんをにらみ上げたまま、ぽろぽろと涙をこぼす。
「酷い! 酷い! もしかしてまさか、とは思ってたけど、本当に実行してたなんて!」
お父さんはお母さんから目をそらした。ぼくとマァルもお父さんに近付いていって、お父さんの手を握る。
「お父さん、ぼくは……頼りない?」
「わたし、力になれない?」
「そういうわけじゃなくて……その……」
お父さんはそれっきり黙ってしまった。
「ともかく、一回グランバニアに戻りましょう。色々話し合わないとね」
お母さんはお父さんをにらんだまま、低い声で宣言した。


■一応、予定通り進んでたりします。
ちょっと波風たたせてやろうかと思って。心配要りません。
……たぶん。

 

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