■友人に「テっちゃんはどこへ行くのだ!? 一人じゃ無理だようー」と言われて、「ラインハットだよー」と答えたら怒られました。

「家出前みたい!」とかも言われました。
……家出ねえ。そんなうまくいくかねえ。

あの人、詰めが甘いので有名だよ(笑)
  
■グランバニアで 4 (テス視点)
中庭で子ども達とビアンカちゃんが遊んでいるのが見える。どうやら鬼ごっこをしているらしく、走り回りながらきゃあきゃあ言う声がここまで響いてくる。
ボクは窓からその様子を見ながら、一緒に隣でその様子を見ているオジロン様に声をかける。
「とまあ、そういうわけなので、ラインハットに出向いてきます。明日には帰ります」
「必ず帰ってくるのだぞ?」
「勿論ですよ。昨日はあんな事言いましたけど、やっぱり……ビアンカちゃんも、ソルもマァルも、もう手放したくないです。……ボクはボクが思っていた以上に、欲張りだったみたいです」
ボクは笑う。
オジロン様は少し目を細めて、中庭で遊ぶ子ども達を見た。
「あんなに笑って……。よほど嬉しいのでしょうな。あんなふうに歳相応の王子達を見たのは初めてです」
そういって、ボクの方を見た。
「あの子たちの笑顔には、陛下の存在も必要なのですよ。それをお忘れなく」
「勿論」
ボクはオジロン様に笑いかける。
「では、用意が出来次第行ってきます」
 

オジロン様が部屋から出て行ったのを確認して、ボクは窓を開ける。体を半分くらい乗り出すようにして、下の中庭で遊んでいるビアンカちゃん達に声をかけた。
「ねえ」
声に気づいたのか、ビアンカちゃんが足を止めてこっちを見上げた。
走っていたソルが思いっきりビアンカちゃんにぶつかったらしい、痛そうな声をあげて鼻をさすっている。
「なぁにー?」
ここまで聞こえるようにだろう、ビアンカちゃんは少し声を張り上げる。
「オジロン様の了解を取ったから、ちょっとラインハットまで出かけてくるねー」
ボクも少し声を張り上げた。そのせいで語尾が延びてちょっと間抜けな音になる。
「もう行っちゃうの!?」
ビアンカちゃんが慌てた声を出す。
「うんー。ちょっと急ぐ用事だからー。ソルとマァルをよろしくねー」
「……やっぱり私も行きたいー」
ビアンカちゃんが口を尖らせるのが見えた。
「今度行くときは連れて行くよー。明日には帰るからー」
「約束よー!?」
「うん、約束ー。じゃあねー。バイバイ」
ボクはひらりと手を振って、窓から顔を引っ込めた。
それから大きく息を吸う。
軽く声を張り上げたせいか、ちょっと喉が痛い。いつも用意してもらってある水を飲んでから、ボクは一度伸びをした。

それから、荷物を点検する。
最近はラインハットに重い話ばかりをしに行っている。そろそろヘンリー君にとってボクは疫病神になってきてるんじゃなかろうか、と思うと少々気が重い。

ボクは白い布に包みなおしたヨシュアさんの骨を見る。
軽い。
人は最期にはこんなに軽くなってしまう。
お父さんはこの軽ささえ残すことが出来なかった。
ボクは暫く目をつぶる。
頭の中で何度も繰り返した、その記憶。
忘れてしまわないように。埋もれさせてしまわないように。
染み付いた悲しみを、いつも鮮明にしておくために。
ボクは大きくため息をついてそれから部屋を後にした。

「ねー、誰かヘンリー君に会いたくないー?」
ボクは魔物の皆が使っている一角へ行って声をかける。
「え? 何? ラインハット行くの?」
スラリンが跳ねてきた。
「うん、ピエールに聞いたかもしれないけど、ヨシュアさんをマリアさんのところへ連れて行かなきゃ。帰りを待ってると思うんだ。……早いほうが良いでしょ?」
「そうだなー、そういうのは早いほうがいいなー」
スラリンがうんうんと頷く。ホイミンがその後ろでまねをした。
「オイラ、行く」
「ホイミンもー」
「じゃあ、一緒に行こう」
ボクは二人の体をそっと撫でた。
「私も行きます。私も見たことをマリア殿にお伝えしたいと思います」
「じゃ、ピエールも一緒に行こう。あ、ゲレゲレも一緒に行かない?」
ゲレゲレは迷惑そうに鼻を鳴らしたけど、それでものっそりと立ち上がってこちらにやってきた。
「そう、行ってくれるんだね」
ボクがその鼻を撫でると、ゲレゲレはやっぱり不満そうに大きく息を吐いた。
「後……マーリン爺ちゃんも行く?」
「ワシ?」
声をかけられる予定じゃなかったんだろう。ビックリしたようにマーリン爺ちゃんはこっちを見た。
「そう。たまにはお出かけしない?」
「まあ、悪くは無い」
「じゃあ決まりだ。行き先はラインハット。ルーラで行くから一瞬だけどね。明日には向こうを発つ予定」
ボクが言うと、皆が頷いた。
「じゃ、行こうか」
ボクは皆を引き連れて城門を目指す。

 
城門まで行くと、ビアンカちゃんがソルとマァルと手をつないで立っていた。
「あれ? どうしたの?」
「見送りよ。今回はマァルが行きたくないっていうから仕方ないけど……。けど、本当に今度は連れてってね?」
「約束します」
ボクが言うと、ビアンカちゃんは後ろに居た皆に目を向ける。
「……皆は連れて行くの?」
彼女は不満そうな目を一瞬ボクに向けた。
「うん。皆ヘンリー君とは仲良しだし……ピエールはヨシュアさんを見つけたときそばに居てくれたから、様子を伝えたいって」
「そっか……。早く帰ってきてね」
「うん。なるべくそうする」
ボクが答えると、ビアンカちゃんは笑った。
ボクらは見送られながら、城門を出る。
「そういえば、私、前もこうやってテスを見送ったね」
「そうだね。そういえばその時と同じメンバーだ」
そんな話をしていたら、ソルとマァルは不思議そうな顔をした。「ソレっていつ?」
「ソルたちが生まれる前」
「今度そのお話聞かせてね!」
「そのうち、機会があったらね」
ボクは苦笑いする。あの頃はまだ、王子でもなんでもなかった、何て言ったらこの子達はどんな顔をするだろう。
城門をくぐったら空はぼんやりとした青い色をしていて、春独特の少しぼんやりとした暖かさの風が吹き抜けていった。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ビアンカちゃんに手を振って、ボクは小さな声でルーラを唱える。
軽い浮遊感。
ソレと共に、すぐにグランバニアが見えなくなった。
そしてすぐにラインハットの町外れに立っていた。
やっぱり、便利だけど情緒がないな、この呪文。


■なんか、また寄り道だらけになってきました。
寄り道してないで、さっさと進めればいいんですよね。寄り道するから妙に面倒な状況になってきてるんですよね。
わかってるんですけどねー。

次回からはラインハット編です。
早くマーサを助けに行きたいです。
 

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