■ふと思ったんですが、もしかしてイブールって、DQ5内では散り際が潔いほうかもしれませんね。
まあ、だから何ってわけでも無いですけど。ワニだし。

■大神殿 9 (マァル視点)
ゲマが高笑いと共に消えると、お父さんは大きくため息をついた。長い長いため息で、体の中から何かを吐き出してしまうみたいな感じだった。
「ゲマ大っきらい! 次は絶対やっつけてやるの」
「また逃げられたね。全く……なんだかなあ」
「次会うときがヤツの命日です」
ピエールが舌打ちしそうな勢いで言う。
お父さんもピエールも、ゲマのことは大嫌いなんだ。何か二人とも、ゲマが出てくるといつもと様子が違うもん。
まあ、お父さんが変わるのはわかるけど、ピエールにも何かあったんだろうな。そのうちまた聞いてみよう。
「さ、戻ろうか……。イブールは倒したし、もしかしたら本当にビアンカちゃんが元に戻ってるかもしれない」
「うん!」
わたしとソルはお父さんの言葉に頷く。
そのときだった。
一瞬、何もない空中がゆらっと揺らめいて、そこからにじみ出てくるみたいに、綺麗な指輪が落ちてきた。
金属の、硬い音を響かせてソレは床に落ちる。
「何だろう?」
お父さんはその指輪を拾い上げる。
緑色の小さな宝石が付いた、綺麗な指輪だった。綺麗な球形をした宝石のなかで、小さな光の粒が尾を引きながらキラキラと光を放ちながら揺らめいている。
「……何か、宝石の様子がコレに似てるよね?」
お父さんは左手の薬指を見る。
お母さんとの結婚指輪も、綺麗な球形のオレンジの宝石の中で、小さな炎が揺らめいている、不思議なものだった。
「ビアンカちゃんの水のリングも似たような宝石ついてたし、もしかして同じ系統なのかな?」
お父さんは首をかしげながら指輪をまじまじと見つめる。
「……なんか暖かいな……何だろう?」
首を傾げて、お父さんはいきなり何の予告もなくその指輪を左手の小指に嵌めた。
「なんとも無い? 大丈夫?」
わたしが恐る恐る聞くと、お父さんは「大丈夫」っていって笑った。
「何か、妙に落ち着くんだ。これ」
お父さんは言うと、もう一回指輪を見てそれから私たちに笑った。
「じゃ、行こう」
お父さんはわたしとソルと手をつないで歩き出す。お父さんはまた、左腕にバングルを嵌めてたけど、もしかしたらコレまで程は苦しくなくなったかもしれないなってちょっと思った。
 
 
帰り道には、魔物が全然居なかった。
神殿の中は、行きと違って凄く綺麗な空気が満ちているような感じがする。悪いものが全てなくなってしまった、そんな感じ。
道はいつもどおりお父さんがしっかり覚えてくれていたから、全然迷う事なく普通に戻ることが出来る。
そういえば、ソルもサンチョも方向音痴で、三人で旅をしてるときはすっごく困ったなって思い出したら、ちょっと笑えた。
「どうしたの?」
笑うわたしを見て、お父さんが首を傾げる。
「なんでもないの」
「そう? ならいいけど」
そんな事を言いながら、水が流れていた土の床のところまで戻ってきた時だった。
いきなり、さっき拾った緑色の指輪が光りだした。光はどんどん強くなっていく。
「?」
わたしたちは指輪を見た。
「熱くないの?」
ソルが心配そうに言うと、お父さんは首を横に振った。
「全然。……何か安心できるようなそんな……」
お父さんが言いかけたときだった。

「テス……。テス……」

指輪から、声がした。
女の人の声で、凄く優しい声。やわらかい声。
「わたしの名はマーサ。テス……。わたしの声が聞こえますか?」
お父さんは指輪を自分の顔の辺りまで持っていく。
驚いたみたいに目を見開いて、呆然とその指輪を見つめる。
「テス……聞こえますか?」
「うん、聞こえる! 聞こえるよ! ……お……かあさん、なの?」
「ああ! わたしの……この母の声が聞こえるのですねっ!」
指輪からは、物凄く嬉しそうな声が響く。
お父さんはただただ指輪を見つめて、息も出来ないみたいだった。
「テス。大きくなったお前の姿を、この母はどんなに見たいことでしょう! ……しかしそれは願ってはいけないこと」
お婆様の声が少し寂しそうになる。
「テス……。魔界に来てはなりません。例え伝説の勇者でも、魔界にいる大魔王にはとてもかなわないでしょう。テス。お前にはすでに、かわいい奥さんと子供たちがいると聞きました。この母のことなど忘れて、家族仲良く暮らすのです。母はこの命にかえてもミルドラースをそちらの世界にいかせません。さあ、もうおゆきなさい。すぐそこに可愛い人が待っているはず。さようならテス……」
「待って、お母さん、ねえ待って!」
お父さんは何回か指輪に叫んだけど、お婆様の声はそれっきり返ってこなかった。
「……お母さん」
お父さんは呆然と指輪を見つめる。
「お父さん! 今の声は本当のおばあちゃんの声だよね!? 伝説の勇者でも勝てない大魔王だなんて……そんなのウソだ!」
ソルは勇者様だから、あんなの言われたらショックだろうな。
わたしも、助けに来なくていいなんていわれてショックだもん。
「……うん、きっと嘘だよ。きっと……心配かけたくなかったんだ」
お父さんは力なくソルの頭をぽんぽん、と触った。
「ねえ、お父さん。その指輪見せて?」
お父さんは頷くと、私に指輪をはずして見せてくれた。
「この指輪を持ってるだけで気持ちがすごくあったかくなるね。ふしぎ……」
「きっと、ソレがお母さんのぬくもりなんだね。……ボクは先に知っちゃってごめんね。でも、もうすぐ二人ともお母さんに会えるよ。……お婆様は『可愛い人がすぐそこで待ってる』って言ってた」
お父さんは指輪を嵌めなおしてにっこりと笑う。
「ビアンカちゃんが、待ってる」
そういって、わたしとソルの手を握りなおす。
「それから、お婆様も絶対助けに行こう」
「うん!」
「お婆様の声すごく優しかった……。お父さん……もっとお婆様と話したい……。いろんなこと話したいよお……」
「うん、そうだね。早く行って助けようね」
お父さんは頷くと、前を向く。
「さ、お母さんに会いに行こう」

 
幅の広い長い階段を登りきって、最初の祭壇に戻る。
偽物のお婆様を倒したところ。
お母さんの石像が置かれていたところ。
「坊っちゃん!」
サンチョが嬉しそうな声を上げたのが聞こえた。
あたりには凄く優しい金色の光が満ちていて、とても眩しかった。眩しいけど、嫌な感じじゃない。
嬉しい、暖かい光。
その光は、お母さんを中心にキラキラと光り続けている。

少しずつ、お母さんの色が戻ってくる。
灰色だった肌は、やわらかそうな白い色に。
金色の綺麗なやわらかそうな髪の毛。
お母さんは、何度か瞬きをした。
南の海の、浅い所の水を閉じ込めたみたいな、澄み切った青い目。
キョロキョロと辺りを不思議そうな顔をして見回している。

「……っ!」
短く息を吸う音と一緒に、お父さんの手がわたしたちからするりと抜けた。
そのままお父さんはお母さんのところに走っていく。
すっかり石じゃなくなったお母さんをギュッと抱きしめる。
お母さんはビックリしたみたいに暫く動かなかったけど、ゆっくりとお父さんの背中に腕を回した。
凄く、綺麗な笑顔だった。


■お帰りなさい女神様ー!
色々言いたい事もありますが、文字数ギリギリなので何も言えず。ともかく、無事救出。おめでとうありがとう。
 

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