■うっかり2本めです。
書く手を止めたらかけなくなるんじゃないかなって思いまして。
本当は保存しておいて明日以降ー、とか思ってたんですが、なぜだか知りませんが、「ヤフー ノートパッド」が文字化けして保存されちゃうのです。現在職場。今日に限ってフラッシュメモリ持ってきてない……。
コピペで文字数調べるのにこっちに残しておいて良かったよ……。2400字が消えるトコだった……。

■坊っちゃんのこと (サンチョ視点)
息が、出来なかった。
テーブルの上に投げ出せれている坊っちゃんの腕の、痛々しい焼印。
焼けた鉄を押し当ててつけられる、罪人の証。

坊っちゃんは、テーブルに顔を伏せたまま、こちらを見ようとはしなかった。
眩暈がした。息は未だにちゃんと出来てない気がする。
「い、いつから、ですか?」
たったそれだけ聞くだけなのに、中々舌が動かない。口の中がカラカラに乾いている。
「前、天空城でボクの過去を見たでしょう?」
ソル様とマァル様が頷いた。二人の目には涙がたまり始めている。
私は見ていないが、その話は聞いた。
ソル様やマァル様の話だけでは信じきれず、ピエールにも話を聞いた。
辛い辛い、坊っちゃんの過去。旦那様の最期。
「ジャミが、この子は……お父さんはドレイにとして一生幸せに暮らすって……」
ソル様が震える声で言う。
「うん、ボクとヘンリー君はジャミにつかまって、まだほとんど何にも無かったセントベレス山に連れて行かれた。他にも大人も子どもも、老人も、男も女も関係なく沢山の人たちが連れてこられてた。全員、ドレイだった」
坊っちゃんは顔を伏せたまま、淡々と喋った。
「じゃ、じゃあ、坊っちゃんは、あの後すぐってことは、まだ7つでしょう!?」
たまらず声をあげる。信じられなかった。
たった7歳。
しかも目の前で父親が惨殺された直後。
「うん、7歳だった。何が何だか、さっぱりわからなかった。わからないまま焼印をつけられた。わけもわからないまま怒鳴られて、殴ったり蹴られたり、鞭でひっぱたかれた」

想像する。
まだ父親の死も癒えない小さな子どもが、わけもわからず焼印を押し付けられる。
その恐怖と痛みと、絶望。

「恐かった。何が何だか本当にわからなかった。ただ、いう事を聞かないとひっぱたかれるって、それだけしかわからなかった。目の前にある土や岩を運ばなきゃいけないんだって事だって、中々理解できなかった。爪はすぐはがれてなくなったし、怪我をしても誰も助けてくれなかった。魔法が使えるのがばれると、使えないように喉をつぶされるから、怪我を治す事もできなかった。ご飯はろくに与えられなかったから、いつも飢えてた。眠るところは狭くて寒くて、凄く汚かった。毎日誰かが死んでいったし、見張りの憂さ晴らしに殺された。毎日、次は自分かもしれないって思ってた。死んだらどんなに楽だろうかって、でも死にたくないって。毎朝目が覚めるたび呆然とするんだ。まだ生きてる、逃げられる。まだ生きてる、あの地獄で働かなきゃならない」

全員が呆然としていた。
ソル様は必死に涙をこらえていた。マァル様は少し泣き始めている。二人で手をつなぎ、それでも坊っちゃんの言葉をじっと聴いていて、痛々しかった。
坊っちゃんは淡々と話す。
ただ、事実を述べていくだけ。何の感情もうかがい知れない。
坊っちゃんは、涙を忘れ、心も体もぼろぼろにして、生きてきた。
生きる事に執着し、絶望し。
その間、私がしていたのは何だ?
ただ悲嘆にくれていただけ。何もしていなかった。

「なあ、右手、右手は何にも無いんだろ?」
スラリンが、救いを求めるように尋ねる。
坊っちゃんは力なく首を左右に振った。そして右手首のバングルをはずす。
そちらにも、焼印。5桁の数字。
「な、何の数?」
スラリンが引きつった声で尋ねる。
「ボクの番号。ボクらは生き物以下だったから、物だったから、名前なんて人間らしいものを持ってるのは許されなかった」
坊っちゃんは暫く左右の焼印を見つめた。
ため息をついたあと、バングルを腕に嵌めなおす。
幅広のソレは、過去をすっぽりと覆い隠した。
「毎日鞭に追い掛け回されて体力以上に働いて、憂さ晴らしに意味なく蹴り飛ばされて、逃げようとしてはつかまって拷問されて、それでもボクもヘンリー君も生き続けた。小さかったボクらを助けようとして死んだ大人も居た。ボクらが小さかったばっかりに、助けられなかったおじいさんが居た。何を信じて、何を疑っていいのか、わからなかった」
坊っちゃんが顔をあげる。
顔色が悪い。気分が悪いのか、胃の辺りをさすっている。
「十年、地獄に居た」

十年。
その気の遠くなるような長さ。
恐ろしい長さ。
絶望と、痛みと苦しみと、ともに生きていた。

「ヘンリー君が居て、まだボクはマシだった。今生きてるのは、ヘンリー君のおかげ」
「……そもそもヘンリー様がわがままを言わなきゃそんな目には遭わなかったでしょう!?」
思わず私は声を荒げる。
坊っちゃんが捕まったのは、旦那様が亡くなったのは、元はといえば。

「サンチョ、そもそも悪かったのは、なんていうのは意味がないよ。本当のところ、多分誰も悪くなかったんだと思う。ラインハットは、皆すれ違ってた。誰もが誰かに愛されたくて、でもうまくいかなかった。不運が重なっただけだったんだよ。今ボクはそう思ってる。確かに元凶を作った人はいる。ボクだってその人を恨んだ事もあった。……けどそれはヘンリー君じゃない」

坊っちゃんは私をじっと見た。

「ヘンリー君が居てくれたから、生きてるのは本当なんだ。いつだってボクをかばってくれたし、助けてくれたし、支えてくれた。ヘンリー君は自分の事を後回しにして、ボクを助けてくれた。サンチョが言ったように、自分のせいだっていって」
「当たり前です」
「そうかな? 自分のせいで不幸にした人が目の前に居て、十年も助け続けられる? 最初は罪の意識かもしれないけど、そういうの、そのうちわずらわしくなるんじゃない? いつまでも自分の罪を突きつけられてるってことだよ? それに、ヘンリー君だって、同じ目に遭ってるんだよ? 本当は自分の面倒見るだけで精一杯なんだよ。ソレは、周りの大人の様子を見てたらわかる。誰もが自分だけで精一杯で、助け合うなんてほとんどしなかった」
「それは……」
「ボクはヘンリー君に感謝してるし、サンチョがヘンリー君のことを悪く言うのはとても嫌だ。気持ちはわかるけど、もう、許してあげて」
私は不承不承頷いた。
坊っちゃんがここに無事で居る事が、本当にヘンリー様のおかげなら、これ以上責めてはいけないのも、納得しよう。

「ともかく、十年だった。長かった」
坊っちゃんはそういって、目を伏せた。


■サンチョには、ヘンリー君を許してあげて欲しいです。
でもまだまだ、前途多難そうですね。

あー、それにしても辛いです。
私なんでこんな辛い目にあってるんですか? しかも自主的に。
読んでてどうなの? 気分悪くない? 大丈夫?
私誰かに怒られるんじゃない?
 
……たいしたことないって怒られたりしてね……。
 

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