■比べるって行為があんまり意味がないっていうのはわかった上で。

よそ様の5主は格好いいなー。
ちょっと見習いなさいよテっちゃーん。

そんな事を思った秋の夜長。

■冬の終わりに (ヘンリー視点)
その日は冬にしては珍しく暖かい日で、オレは万年たまり気味の仕事を前に少々うんざりしていた。
こんないい日に、何でこんなに仕事があるのか。
積もった雪が溶けていっているのか、遠くで水が流れる音がしている。
春が近い。
部屋の外から時々前を通っていく兵士達の足音がしたりするくらいで、とても静かだった。
半分寝てる頭で、何とか書類に目を通す。
街の外に出れば魔物が襲ってくるこのご時勢に、春の祭りのための見積書を安全な場所で読む。
オレが知らないだけで世界は実は平和なのか、それともこういう事でもやってねえと乗り切れないのか。
どのみち自分は少々平和ボケしてるだろう、と思う。

 
ドアがノックされた。
この時間は誰も来るなって言ってあったから、少々不機嫌に返事をする。
「あいてる」
「やあ、元気?」
入ってきたのはテスだった。
怒鳴りつけてやろうと思って待ち構えてたから、呆気にとられて暫くテスの事を見つめてしまった。
旅の途中で寄ったんじゃないらしい。旅をしてるときの白い服に紫のマントの格好じゃなくて、軽装とはいえグランバニアの国王としてふさわしい格好をしていた。

ただ、酷い顔をしてる。
表情が暗い。
どっか思いつめてるみたいな顔だ。

「……お前、どうしたんだよ?」
「んー、まあ、ちょっとね」
オレの質問にはちゃんと答えないで、テスはへらっと笑った。
オレは立ち上がると部屋の一角にあるソファのほうへ歩く。
「ま、座れよ」
テスはソファに座った後、落ち着かない様子であちこちをきょろきょろと見ている。考えてみればテスはこの部屋は初めてだ。
オレは隣の部屋に控えていた侍従に紅茶を持ってくるように頼むと、テスの正面に座る。
「お前さ、ちょっと太った?」
なるべく核心には最初から触れないように、差し障りのない言葉を選んで声をかける。
「がっしりしたって言ってよね」
オレの言葉にテスは呆れた顔をした。
まだ、精神的な余裕はあるらしい。
「大体、太ったのはヘンリー君のほうじゃない?」
「いつまでも格好いいオレを捕まえて何言ってんだ」
そんなことを言い合ってるうちに、紅茶が出てくる。しばらく誰もこの部屋に寄せないように言いつけて、侍従を部屋から追い出した。

オレたちは暫く無言で紅茶をすする。
わざわざここまでやって来たくせに、テスは何も喋ろうとはしない。紅茶を飲んだり、思い出したように窓の外を見たりしながら、ちらちらとオレの顔を見ている。
オレから話しかけるのを待ってるんだろう。

何しに来たんだよ全く。

「そういえば、お前子どもは? ソル君とマァルちゃん。元気?」
「うん、二人とも元気だよ。元気で健気で……泣きそうだよ」
「……そうか」
「ビアンカちゃんが……お母さんが居なくて寂しいだろうにさ、全然そんな素振り見せないし、ボクが落ち込んでたら励ましてくれたりしてさ……どっちが子どもだよ、って感じ」
「そうか。……でもさ、ソル君やマァルちゃんに言わせればきっとお前が居て嬉しいんだと思うぜ? 再会して一年半くらいだっけ?」
「そうだね、去年の夏だったから」
「親父に思いっきり甘えられてきっと嬉しいさ」
「そうかな? ボクのほうが甘えてる感じだけど」
テスは軽く肩をすくめる。
「お前は? ガキの時どうだった? 今のソル君やマァルちゃんと一緒だろ? 『お父さん』のパパスさんが居て、『お母さん』が居ないわけだし」
「まあ、確かに似てるけど……。お父さんが好きだったし、いつだって楽しかったけどさ。……ボクはお母さんって概念がすっぽ抜けてたからね。サンチョがお母さん的なところを担ってくれてたというか」
「サンチョさん今でも居るだろ、一緒」
「ボクとお父さんがイコールになるとでも?」
「お前自身の評価はともかく、子どもに言わせればお前が父親。だからイコール」
オレの言葉に、テスは暫くぽかんとした顔でオレを見ていた。
「……ヘンリー君って、格好いいねえー」
「お前今更何を言ってるんだ、オレはいつでも格好いい」
真顔で答えたら、テスは思いっきり笑いやがった。
失礼な奴だ。

 
「ちょっとね、聞きたい事があって来たんだ」
テスは漸く本題に入ることにしたらしい、荷物の中から書き込みがいっぱいしてある地図を取り出してきた。
それをテーブルに広げて、指をさす。
ちょうど、ラインハットの西のほうにある岩山を超えた辺りだ。
地図の中では盆地になっている。
「この辺りにそのうち行きたいんだけど、ここってラインハットの領地内?」
オレは頭の中に入ってる領地の地図と照らし合わせて頷く。
「ああ、まだラインハットだな」
「何がある、とか記録残ってないかな? 行って何にも無かったら時間がもったいない」
「あー、じゃあ書庫内捜索させて何か記録されてないか探させるか。ちょっと時間かかると思うぞ、広いから」
「急がないよ。そんなニ・三日で探せとか言わないよ。記録でも言い伝えでも何でもいいから教えて貰えると嬉しい」
テスは言いながら地図をしまった。
「けどよ?」
オレはテスを見る。
「記録になんか残ってたとして、あの岩山を超えるのは少々きついぞ」
「あー、その辺は全然心配しないで。色々手立てはあるから」
テスはにやっと笑う。
「ねえ、ヘンリー君天空城が復活したって噂聞いた事ない?」
「秋の終わりに南の空を飛んでたって噂は聞いた。噂は噂だろ? もし本当だったとしてもどうしようもねえだろ?」
テスのにやにや顔がさらに笑顔になる。
「……噂じゃねえのか」
「むしろ復活させたのボクたち」
オレは思わずテスの顔をまじまじと見つめた。
コイツは、この手の冗談を自分で創作して言うほど神を軽く思ってないし、第一ユーモアセンスもない。

「本当なのか」
「うん」
「詳しく話せよ」
「長くなるよー?」
「ニ・三日泊まってけ」
「じゃあ、前ここに寄せて貰った後の話をするね」
テスはそういうとソファに座りなおす。
長い話が始まった。


■……というわけで、ヘンリー君再登場です。
彼が出てくるとテっちゃんが饒舌になるのか、ポンポン会話が弾んで書いていて楽しいのですが、今日は出だしが随分大変でした。
詰まった詰まった。
これからどうなる事やら。

まあ、テスの「長い話」はコレまでのあらすじなので端折り気味に書くとして、核心の話が長くなりそうです。
しばしの間脱線にお付き合いください。

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