■なかなか上手くかけません。
やっぱり理想が高くても現実って追いつかないんですよ。多分。

■遠い町で 2 (テス視点)
ゆっくりと歩いて、教会の前に着く。
ガラス窓越しに中をのぞいたら、丁度窓の外を見ていたシスターと目が合った。シスターも、まだ若い。多分、今のボクよりも随分若いんじゃないだろうか。子どもの時は気付かなかったけど、十代の後半くらいかもしれない。
何だか懐かしい気分になって、ボクは笑いかけると会釈する。
とたんに、シスターは真っ赤になって両手で頬を隠した。少しじたばたと動いてるところから見て、多分照れてるんだろう。
そういえば、シスターはお父さんの事をスキだったみたいだったし、もしかしたら今のボクの顔は好みなのかもしれないなって、そんな事を思った。
ちょっと苦笑。

暫くしたら、いきなり教会のドアが勢い良く開いた。
そして、中から転がるように男の子が飛び出してくる。
黒い髪。紫色のターバンとマント。薄緑色の服。

ああ、ボクだ。

小さなボクは、ボクに気付いて立ち止まる。
目を大きく見開いて、少し呆けた様な顔でボクを見上げた。
こうしてみてみると、サンチョが「ソル様はお小さい頃の坊っちゃんによく似てらっしゃいますよ」なんていう理由がわかる。
確かに、小さい頃のボクと、ソルは似ている。
ただ、まあ、小さなボクの方が今のソルより小さいせいもあるかもしれないけど、なんていうか……。
自分の事だけど、そう、間が抜けてる感じ。

多分、ボクの方が小さい頃の生活が恵まれているってことだろう。お父さんに守られて、サンチョに守られて、ノンビリした村で暮らしていて。何も苦労してなかったんだ。冒険っていってもせいぜいが村の洞窟や、危険の少ないお化け退治。

でも、ソルは。
生まれてすぐ、ボクやビアンカちゃんっていう親の庇護を失った。
そしてすぐに天空の勇者として、義務を押し付けられた。
歳よりもずっと大人で居ることをあたりまえだと思ってる。
ソルのほうが、ずっと厳しい顔をしてる。

辛いことを、押し付けてる。

気持ちを切り替えよう。
ボクは小さなボクににこりと笑いながら声をかける。
「こんにちは。ボク」
「こんにちわ!」
小さなボクが凄く元気な声をあげる。何も怖いものを知らない声。足元でまだちいさいゲレゲレが不機嫌そうな声をあげてボクを見上げてる。
「強そうなネコだね」
そう、この時点でまだ彼は「ネコ」だ。
「うん。ゲレゲレ、強いよ! ビアンカちゃんと助けたの!」
「へえ、ボク強いんだ」
「えへへー」
小さなボクは随分自信満々にゲレゲレの事を自慢して、それから笑う。
子どもらしいっていえば、子どもらしいのかも。
ゲレゲレの方は、多分匂いや雰囲気でボクが二人になった感じがするんだろう、凄く困ったように小さなボクと、今のボクを見比べている。少し可愛そうな気がしてきた。
話を続けようと口を開いた時、いきなり小さなボクは「あ!」って声をあげて、ボクを見上げるとにこーっと笑った。
「わかった、お兄ちゃんが怪しい素敵な人でしょ」
「……ボクそんな風に言われてるんだ」
ボクは苦笑する。
そういえば、村で起こってるベラのいたずらを、ボクのせいだって疑ってたっけ、武器屋のおじさん。
それにシスターはボクをみて騒いでたっけ。
「ボクはね、ちょっと探し物をしててね。で、世界中を回ってるんだ。今日はこの村を探しにきたんだよ」
ボクが答えると、小さなボクは嬉しそうな声をあげる。
「へえ! じゃあ、ボクのお父さんと一緒だね! ボクのお父さんも探し物してるんだよ。お話してみたら、いいかも! ボクのお家ね、あれ!」
小さなボクは家を指差す。その指は確実に二階に居るお父さんを指差していて、誇らしげだ。
胸の奥がざわつく。
鼻の奥がつんとした。
泣きそうだ。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
泣きそうな顔をしたボクをみて、小さなボクは心配そうにボクの顔を覗き込む。
「うん、元気だよ。……大丈夫」
ボクはしゃがんで、小さなボクと目を合わせた。

本当に、何もまだ疑ってなかった頃のボク。
いつまでも、この平和が続くって。
ずっと信じて、疑ったりしてなかった。
このまま成長できてたら、ボクはどうなっていたんだろう。

また泣きそうになって、慌てて感情を遮断する。
しなきゃいけないことを、しなきゃ。
「あれ、ボク、ステキな宝石を持っているねえ。その宝石をちょっと見せてくれないかなあ?」
「えー? どうしようかなあ」
小さなボクは困ってるみたいだった。そういえば、このときまだオーブはビアンカちゃんからの預かり物で、それでちょっとためらったんだっけ。
「あはは、別に盗んだりしないよ。信用してね」
「そうなの? じゃ、いいよ」
やけにあっさり、小さなボクはボクにオーブを渡した。
なるほど、小さい頃は本当に即答癖があったのかも。ヘンリー君によく叱られたっけ。

ボクはオーブを受け取って立ち上がる。
それを太陽にすかしてみたり、顔に近づけたりして調べるフリをした。
一瞬、小さなボクがゲレゲレに気を取られて視線をはずした。

今しかない。

ボクはさっとオーブを懐に入れて、そのかわり妖精の女王様に頂いた金色に光るだけのオーブをさっと出す。
「本当にきれいな宝石だね。はいありがとう。……坊やお父さんを大切にしてあげるんだよ」
ボクは金色に光るだけのオーブを小さなボクに渡しながら言う。

本当に、大切にしてあげて。
あと、ちょっとだけしか、キミはお父さんと居られないんだ。

小さなボクは、何の疑いも持たないで笑った。
「うん、お父さん、大好きだもん!」
小さなボクは大切な宝物を、ビアンカちゃんとの思い出のオーブを、しっかりとしまいこんで、それからボクに手を振った。
「バイバイ、お兄ちゃん!」
言うと、走っていこうとする。
「あ、ねえ!」
ボクは思わず彼を呼び止めた。小さなボクはすぐに足を止めて、不思議そうにボクを振り返る。
「なあに?」

「あのねボク! キミはこれから大変な目にあうかもしれない。……けどね。キミはすごい強運の持ち主だよ。世界はキミにやさしいし、みんなキミの味方だよ」

そう、世界はずっと、ボクに優しい。
忘れてしまうこともあったけど、ずっと優しかったんだ。
ここにこうして、今生きてる。
大好きな人に逢える。
大切な家族が居る。

ビアンカちゃんが贈ってくれた言葉を、ボクはボクに贈る。

小さなボクはきょとんとして聞きかえす。
「おにいちゃんも?」
「もちろん。だからね、負けちゃいけないよ。いっぱい大変な目にあったあとは、いっぱい楽しいことがあるからね。負けないでね」
「うん、わかったー。ボクね、負けないよー。じゃあね、おにいちゃんバイバイ!」
手を振って走っていく彼に、ボクは手を振り返す。
困ったようにボクを見上げてるゲレゲレに、「早く行かないと、おいてかれちゃうよ? ゲレゲレ」と声を掛けると、彼は納得いかないまま、小さなボクを追いかけていった。

ボクはボクが見えなくなるまで手を振り続けて、それから手を下ろした。
大きく息を吐く。

此処で出来ることは、全部終わった。
けど。

ボクは家を見上げる。
すぐそこにお父さんが居る。
……逢っていったら、ダメだろうか。


■言葉を合わせるために小さい頃の話(なんと9話!!)を読み返しながら書きました。
その感想。

……チビテっちゃん、馬鹿すぎじゃないか?

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索