■さっさと次に進みたいので、無理やり一日二本。
ので、二回目は短いですが、まあ、いいじゃないですか。
あ、日記7万ヒット超してますね。ありがたいことです。

■新しい世界 (サンチョ視点)
しっかりと私の手を握って坊っちゃんは眠る。
最初のうちは眉を寄せて辛そうだった表情も、少し和らいできた。
私は坊っちゃんの頭をそっと撫でる。とても懐かしい気分だった。まだ坊っちゃんが小さかったとき、一人で眠れないと言ってよく隣に座らされたものだった。
今、ここで眠る坊っちゃんは、もう大人で、立派に父親なのに、あの頃と同じ子どものようだ。
いつまで坊っちゃんが、私を必要としてくれるかは分からないが、必要とされる間はずっとお側にいよう。

私は坊っちゃんの頭を撫で続け、そして少しため息をつく。
「だんな様……坊っちゃんは随分苦しまれましたよ」
ソル様やマァル様に聞いただんな様の最期の言葉は「自分のかわりにマーサ様を探してほしい」という内容だった。
この言葉が坊っちゃんを前に前に進ませた。
マーサ様を探して、旅をして、ビアンカちゃんと再会した。
この国に戻ってきてくれた。

でも。

たぶんこの言葉は、坊っちゃんにとっては、呪いの言葉だった。
前に進むことだけで、足踏みを許さなかった。
がむしゃらに前へ進み、多くの事を後回しにさせた。傷を癒す暇もなく、ただ前へ。

だんな様の言葉を守ることだけを第一に考えて。
だんな様の夢を叶えようと。

少しだけ、だんな様が憎い。

だんな様だって苦しかっただろう。辛く悔しかっただろう。
それでも。
坊っちゃんに「愛している」と。
最期に言うべきだった。
どうして、言ってくれなかったのか。

それが、少し残念で、少し悲しい。

最期の言葉が愛しているだったら、たぶん、坊っちゃんはここまで傷つかなかった。ここまで自分を追い詰めなかった。
「一度夢ででも坊っちゃんを誉めてあげてくださいね」
私は坊っちゃんの頬を撫で天井にむかって呟く。
坊っちゃんは、もっと報われるべきだ。もうこれ以上、辛い目にあう必要などない。

これからは。
ビアンカちゃんが戻ってきて、マーサ様を見つけて助けだし、ソル様とマァル様と、家族揃って幸せになるはずなのだ。
明るい未来だけが、開かれているはず。

坊っちゃんが目を覚ましたら、きっと今までと違う、明るい世界が坊っちゃんを迎え入れる。

眠り込んだ坊っちゃんの手が、私から離れる。私は立ち上がると、飲み物を取りに歩きだす。いつ目を覚ますか分からないから、なるべく早くかえってこなければ。
部屋を出ると、部屋前の幅の広い廊下にソル様とマァル様が居た。その後ろには魔物の皆が並んでいる。ここに入れる者は全員出てきたらしかった。
坊っちゃんはこんなに皆に愛されている。
「お父さん、大丈夫?」
マァル様が不安そうな瞳を向ける。
「大丈夫ですよ。今は落ち着かれてお眠りになっています。随分お疲れですから、皆さん喧しくしたりしないようにお願いしますね」
私が言うと皆があわてて頷く。
「私は飲み物を取って参りますね」
「お父さん、元気になる?」
ソル様が心配そうにドアを見つめて呟く。
「大丈夫です。もう、坊っちゃんは大丈夫ですよ」
私はソル様の頭を撫で笑いかける。
「きっとこれまでよりずっと、強くやさしく、元気になりますよ」

私はビンに入った水を持って部屋に戻る。
物音で目を覚ましたのか、坊っちゃんは薄く瞳をあけ、私を確認すると手をのばす。握り返したら安心したように微笑みまた目を閉じる。
「大丈夫ですよ。ずっとお側に居ますから、安心してお眠り下さいね」
声をかけると、ゆっくり頷いて、また寝息をたてはじめた。

私は坊っちゃんの体をあやすように軽く叩くと、窓の外を見た。
春が過ぎかけ、深緑が目に眩しい。
新しい季節に坊っちゃんは過去を見据えて立ち直る。
これからは、きっと、明るい世界が坊っちゃんを待ってる。


というわけで、寄り道でのテっちゃんどん底イベントはほぼ終了です。視点を変えて書きたいので、もう一回くらい続くかも。
……続くのかな? 気分しだいです(笑)

もうこういう暗くて痛い話はいやです。
数は少ないけど、まだ暗くて痛い話はあります。

……あるんだー(遠い目)

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