■今日も文字数ピンチです。

■山奥の村 2 (テス視点)
ダンカンさんはニコニコ笑って二人を見た。
「やっぱりテスとビアンカの子か! うんうん。2人の小さい頃にそっくりだよ。それにどことなくわしにも似とるぞ」
そう言ってダンカンさんは豪快に笑った。
「ボクにも似てますか? なんかビアンカちゃんに似てるのはわかるんですけど」
「似てる似てる。まあ、テスは小さい頃もうちょっとぼんやりした顔してたけどな。……それにしても、ずいぶん危ない目にあっただろうに、ここまで元気に育って……」
ダンカンさんは二人の頭をそっとなでた。
ソルもマァルもニコニコしてダンカンさんを見上げてる。
「思えばテスとビアンカが行方知れずになって8年も経ったのだなあ。わしも年を取るわけだよ、わっはっはっ」
「本当、ご連絡が遅れてごめんなさい」
「テスが抜けてるのは今に始まった事じゃないだろう」
ダンカンさんは笑ったまま、やけにきっぱりとそんな事をいった。
ボクは苦笑する。
「こんなじいちゃんに何ができるか分からんが……。力になれる事があれば、いつでも言っておくれ。わしはここでみんなの無事を祈っとるよ。もちろん天国にいる母さんもな」
ダンカンさんはボクの手を取って、ぎゅっと握った。
「今日は泊まっていくんだろう?」
「よかったら」
「悪いわけないだろう。よし、ソルとマァルと散歩でもしてこようかな」
ダンカンさんは立ち上がる。二人は歓声をあげて、ダンカンさんの手を先を争うように握った。
「じゃあ、ボクは留守番してます」
「ダンカンさん、積もる話は後で致しましょう」
サンチョはにこりと笑うと、ダンカンさんとソルとマァルを見送った。

静かになった部屋の椅子に腰掛けて、ボクは大きくため息をつく。
「ああ、あの人には敵わないなあ」
つぶやくと、サンチョは不思議そうな顔を向ける。
「……何で許せるんだろう、ボクのこと。もっと怒るでしょ? 怒ってくれたほうがどれだけ楽か……」
机に突っ伏すと、サンチョがボクの背中を軽くなでた。
「ビアンカちゃんを連れて行く時もそうだった。何も言わなくて、にこにこしてた」
ボクがつぶやくと、サンチョは少し考えてから、
「ビアンカちゃんが一緒に行く事を望んだんなら、ダンカンさんは何も言わないですよ。今だって、坊っちゃんのことを信頼してるから、何も言わないんですよ」
そういってボクの頭をそっとなでる。
「……それはわかるんだけどね。頭と心って、別でしょ」
サンチョは優しく微笑んで、それから何も言わなかった。

「それにしても、ダンカンさんもすっかり老け込んで……。私も年を取るはずですね」
「淋しい事言わないでよ、長生きして」
拗ねたように言うと、サンチョは「ハイ」と返事して、にこりと笑った。
「本当に長生きしてね。サンチョはボクにとって、二人目のお父さんなんだからね」
「そんな嬉しいことおっしゃってくださるんですか」
サンチョは少し目に涙をためた。
「それに、たった五人のうちの一人なんだ」
「何がです?」
「ボクの、小さい頃を知ってる人。こんなに世界は広いのに、たった五人しかいないんだ。ビアンカちゃんと、ヘンリー君と、ダンカンさんと、サンタローズに居たシスターと、それとサンチョ」
「パパスさまもそうでしたが、坊っちゃんも苦労ばっかりで。うっうっ……」
ついにサンチョは泣き出す。
記憶よりずっと、サンチョは涙もろくなっている。
「うん、確かに苦労は多かったし、平均よりずっと悪い人生だったとは思うよ」
あっさり肯定すると、サンチョは淋しそうな顔をした。
「けど、最悪じゃない。今はちょっと離れてるけど、ビアンカちゃんと巡り会えたし、子ども達は良い子だし、サンチョも居るし……優しい家族に恵まれたよ。それに力を貸してくれる仲間が沢山居るし、友達も居る。平均よりは悪いかもしれないけど、ボクはまだ、幸せなほうだ。……ここで今、優しい気分で居られるんだから」

もしかしたら、まだ荒んだ気持ちで地べたに這い蹲っていた可能性だって、ある。

その言葉を飲み込んで、ボクはサンチョの背中をぽんと叩いた。
「ビアンカちゃんとお母さんが揃えば完璧だよ。その時は笑って、人生ってすばらしいって叫んでみせるよ」
ボクは笑って両手を広げて見せた。
 
 
夕方も遅い時間になって、ボクとサンチョが夕飯を作っていたら、漸くダンカンさんがソルとマァルを連れて帰ってきた。
「お帰りなさい」
入り口まで迎えに行くと、子ども達は大事そうに手に何か持っている。両手を、手のひらに空間が出来るようにあわせて、ニコニコ笑ってる。
「何?」
ボクが顔を近づけると、二人はその手をぱっと広げた。
何かがその手からふわりととんでいく。
「え? 何?」
ボクは飛んでいった何かを目で追いかける。
どうやら黒い虫みたいだった。
「蛍って言うんだって!」
ソルがにこにこ笑って答える。
「夜になると光るんだって!」
「へー」
ボクは虫に目をやる。
「あれが光るの?」
ちょっと嘘っぽい。
「綺麗なもんだよ。夜になったら川べりに見に行くといい」
ダンカンさんは笑った。
「その時は、今の捕まえてかえしてきますね」
ボクは窓にとまって弱々しい光を放つ蛍に目をやって苦笑した。

 
サンチョが作ってくれた夕飯を食べて、それから部屋に放たれた蛍を全部捕まえた。それを麻の袋にいれて、ダンカンさんに教えられた川べりへ向かう。
緑色っぽい黄色の光の粒が、いたるところで瞬いていた。
「すごーい! 綺麗!」
マァルが歓声をあげる。
「星も凄く綺麗! グランバニアで見るよりいっぱい見える!」
ソルも興奮したようにあたりを見回す。
ボクは袋から蛍を放つ。
すぐに仲間のほうへ飛んでいって、すぐにどれが放した蛍かわからなくなった。
「本当、凄く綺麗だ」
ボクは光の中でつぶやく。
ビアンカちゃんはこういうのを見て、育ったんだろうか。
ルラムーン草も綺麗だったけど、コレとはまた違う感じ。

世界にはまだボクの知らない綺麗なものがいっぱいあるんだろう。

「ねえ、お父さん」
マァルがボクの手を握って、見上げてきていた。
「何?」
「おじいさま、一人じゃ淋しいよね。……また遊びに来ようね」
「……そうだね」
にこりと笑うと、マァルも笑い返した。それからソルと二人で、光の中へ走っていく。
「川に落ちないでね」
ボクは苦笑して、彼らの後をゆっくりと歩いて追いかける。

凄く幸せな気分。
人生って、そんなに悪くない。

ビアンカちゃんが笑って言っていたことを思い出す。

「テスはこれまで結構大変だったけど、きっともう、大変な事は起こらないの。人生の辛いことは全部済んじゃったの。これからは、きっと良いことしか起こらないわ。神様もそんなに意地悪なわけないもの。これから、世界はテスにやさしいの」

そうかもしれない。
後は、ここにビアンカちゃんが居てくれたら。

 
■書いてるうちに、何が書きたいのかわからなくなったとか、そういうのは秘密です(笑)
サンチョとの会話はずっと書きたくて、書けずに居ました。
書けて満足。
「悪い人生だったけど、最悪じゃないよ」
テっちゃんの基本認識はこんな感じです。

……蛍って、梅雨の生き物だよね。
この話、季節は夏の終わりです。
どうも山奥の村は、いつも季節無視して話を書いてます。

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