■そろそろー冒険に出てほしいなー、まだだなー。
 
■これまでのこと、これからのこと (テス視点)
頭が痛い。
ベッドの中で軽く頭を押さえて、暫くの間軽く反省する。
昨日は夜遅くまでボクが帰ってきたことを喜んでくれる宴が開かれた。もちろんボクが参加しないわけには行かず、ずっと付き合った結果、現在二日酔い。
……本気でお酒に弱いな、と苦笑する。
何とか体を起こすと、身の回りの世話を引き受けてくれている落ち着いた感じの女性が近寄ってきた。
「おはようございます。ゆうべは本当によくおやすみでございましたね」
「ちょっと寝すぎかもね」
ボクは答えて苦笑する。女の人は――クレアさんというらしい――は控えめに笑った。
「サンチョ殿もソル様マァル様も本当にお喜びで……。お二人はずっとお世話させていただいていましたが、あれほど無邪気にお喜びになったのは初めて見ましたわ」
ボクは少し淋しい気分で微笑む。
「苦労かけます」
クレアさんは少し笑った後、胸の前で手を軽く叩く。
「……そうそう、これはサンチョどのからテス王にと。かつてパパス王がマーサさまとご結婚されたときお城の名工がつくった記念ペンダントです」
そういって、クレアさんはそっと戸棚から小さな箱を持ってきた。あけてみると、中には綺麗なロケットが付いたペンダントが入っている。装飾が細かくて、確かに名工の作というのも納得ができた。
もしかしたら、お母さんの顔がわかるかもしれない、そう思ってロケットを開けてみる。
けれども、中は空だった。
ボクが落胆したのがわかったんだろう、クレアさんは話を続ける。
「パパス王はそのロケットペンダントにマーサさまの絵を入れるおつもりだったようなのですが……マーサさまがさらわれてしまい画家に絵を描かせることができなかったのです。ですからこのロケットペンダントは空っぽのまま……」
クレアさんは少し淋しそうに窓の外の空を見た。
「サンチョ殿はテス様が王になられた時、これをお渡しするか悩んだそうですわ。テス様がごらんになれば きっとすぐにでもマーサさまをさがしに行ってしまうだろうと。サンチョどのはテス王をパパス王のような危険な目にあわせたくなかったんですね」
クレアさんは一度だけボクをしっかりと見つめた後、すぐに目をそらす。
「お出かけになられるのでしょう? どうかテス王、ご無理だけはなさらずに……」
受け取ったペンダントをボクはしっかりとしまいこむ。
あまりに華奢で、繊細な作りのペンダントだったから、首にかけるのはためらわれた。
戦いのときに壊れてしまったら、きっと後悔してもし足りない。
「さあ、オジロンさまがお待ちかねでございますよ」

ボクは部屋をクレアさんに頼むと、外に出る。
すぐの廊下に、ソルとマァルが立っていた。
「お父さん! お母さんを探しに行くんでしょ! それで世界をほろぼす悪いヤツをやっつけに行くんだよねっ! ねえ、ぼくたちも連れていってよ」
「わたしサンチョのおじさんから聞いたの。お父さんもわたしたちくらいの頃、パパスおじいちゃんに連れられて旅をしたって。
だからわたしたちも、お父さんについてゆくって決めちゃったんだ! わたしたちきっと、お父さんの力になるからねっ! ね! ソル!」
「うん!」

うーん、見事なまでの自己完結。
 
ボクは苦笑して二人の頭をなでる。
「確かにボクも、二人より小さい頃から旅をしていたから、そう言われちゃうと、連れて行くしかないよね? けど、条件がある」
ボクの言葉に二人はボクを見上げる。
少し緊張しているみたい。
きっとこのはしゃぎっぷりも、年よりもずっと大人びた話し方も、この子達が精一杯しっかり生きようとした結果なんだろう。
ボクやビアンカちゃんが居なかったから。
早く大人になりたかったんだろう。
「条件って? 何?」
暫く二人を見つめたまま黙っていたら、痺れを切らしたのかソルが声を上げる。
「簡単な事だよ。決して無茶はしない事。辛いときや苦しいときは遠慮しないでボクにいう事。皆の事を信頼して、守る事。……約束できる?」
二人はそれぞれ大きな声で「うん!」と叫んで何度も頷く。
「よし、じゃあ一緒に行こう。もう離れたりしないから」
ボクは二人の手を引いて歩き始める。
オジロン様を随分待たせてしまった。
 
 
玉座の間では、オジロン様が待ってくれていた。
「お! 目がさめたようだなテス王!」
「おはようございます、オジロン様」
オジロン様はボクを見る。「うんうん、ちゃんと父親らしいぞ」なんて言ってひとしきり笑った後、ボクに地図を見せた。
「わしらは長い間テス王を探していたが、その途中で……。偶然にもマーサ殿の故郷を発見したのじゃ! 先代のパパス王は随分嫌われていたらしいが、それも昔の話。マーサ殿の子供のテス王になら、チカラになってくれるかも知れん。場所はこのあたりだ」
グランバニアより北の大陸の内陸部をさしながら、オジロン様はそう教えてくれた。
「……お母さんはコレまでどこから来たのかわからなかったのですか?」
「兄もマーサ殿も、エルヘブンという名は教えてくれていたのだが、場所は聞いた事がなかったのだよ」
「……お父さんが嫌われてたっていうのと、多分関係あるんでしょうね」
ボクとオジロン様が話している間、子ども達は退屈そうに部屋の隅で遊んでいた。
が、急にマァルが顔を上げてこちらを見る。
「わたしたちエルヘブンにも行きたかったけど、お父さんを見つけるのが先だと思ったの。だっておばあちゃんの故郷なら、絶対お父さんが行きたいって言うと思って……」
ボクはマァルに笑いかける。
「マァルは優しい子だね」
そういうと、彼女は少し照れたように笑った。ソレを見てから、ボクはオジロン様に顔を向ける。
「……行ってきてもいいんでしょうか?」
そういうと、オジロン様は暫く笑った後、
「本当はもうどこへも行ってほしくない。しかし8年も待ったのだから、もう少し待っても同じだろう? どうせビアンカ殿が居ないとテス王も気が気でないだろうし、真面目に仕事してもらわんと困るからな。先に気になることは全部片付けてきて貰わないと」
なんて事を言った。
「納得しました。なるべく急いで全部終わらせてきます」
答えると、オジロン様は大きく頷いた。
「それまで、もう少しだけグランバニアをよろしくお願いします」
ボクは深く頭を下げる。
この人には、感謝してもし足りない。
「ああ、気をつけてな。ここを拠点に、色々探してくるといい。ついでにコレまで以上に見聞を広めて、国に還元してくれるとなお良い」
オジロン様はそういうと、書き込みをしてくれてある地図を渡してくれた。

「じゃあ、行ってきます。ソル、マァル。行くよ?」
声をかけると、二人が駆け寄ってきた。
「おじさん、行ってきます!」
そんな事を言いながら、二人は手を振る。
そのままボクは玉座の間を後にして、皆のところへ向かう。

「ああ、世界はまだ、ボクに優しいみたいだ」
つぶやくと、不思議そうな顔をしたマァルと目が合った。
「不思議な言葉ね?」
「うん、ビアンカちゃんがボクに昔言ってくれた言葉。いい言葉でしょ?」
ボクが答えると、二人は嬉しそうな顔をして笑った。

 
■次もまだお城です。
なんか「父親」なテっちゃんに、まだ慣れません。
変な感じー。

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