今日のDQ5(145)
2005年6月5日 今日の「DQ5」■また今日も三人称……。
■ある一家に起こった事
■明日から青年後期。漸く話が進みます。
■ある一家に起こった事
「あっだんなさまおかえりなさいませ!」
男は声を掛けてきた下男に手を軽く挙げると、懐かしい我が家に目を細めた。今回の買い付けは随分長く掛かってしまっていた。
「奥さま! だんなさまがもどられました!」
下男が家の中にいる妻を呼びに行くのを見ながら、男は自分の買ってきた石像を見分する。やはり美しいと思った。
「おかえりなさい。ほらジージョちゃん、パパが帰ってきましたよぉ」
妻は息子を抱きかかえて、家の外まで出てきた。
生まれて少したったばかりの息子は、こちらを見てまぶしそうに瞬きをする。いとおしい家族に、男は目を細めた。
妻は夫が買い付けてきた石像を見つけ、不思議そうな顔をする。
「その石像は?」
首をかしげる妻に、男は少し胸を張った。
「なかなか見事な石像だろう? ジージョも生まれたことだし、わが家の守り神として庭にかざろうと思ってな」
答えると妻は少し困ったように笑いながら答える。
「まあ、あなたったらジージョのことばっかり。私へのおみやげはございませんの?」
少し拗ねて口を尖らせる妻に、男は苦笑した。妻のこういう押さないところがたまらなく愛しい。
「いや、それはその……わっはっはっはっ。まいったなどうも……」
男はもごもごと口の中で言い訳をする。
下男が家の中から出てきて二人を見た。
「さあだんなさま、お疲れでしょう。中で何か冷たい物でも……。さあ奥さまも」
二人は促され家の中に戻る。
幸せな時間が流れるその庭の片隅で、買われてきた石像はぼんやりとその家族を見つめていた。
時間は流れすぎ、一年がたった。
ある晴れた明るい春の午後に、妻の声が響く。
「あなた! あなたったら早く出てきてくださいな」
「そんな大声をあげて、一体何事なんだ?」
男は部屋の中でしていた仕事を切り上げると、庭まで出て行く。
妻は庭の真ん中を指差して、嬉しそうに興奮気味の声をあげる。
「ほらあなた見て! ジージョが! ジージョが……」
妻が指差す方を見ると、自分の子どもがよちよちと自分を目指して歩いてくるのが見えた。
男は、胸の奥に暖かいものが広がっていくのを感じる。
「おお! ジージョもついに歩くようになったか! 偉いぞジージョ! どれもう一度父さんに見せておくれ」
自分のところに歩いてきた息子の頭を優しく撫でながら、男は優しい声で言う。息子はしばらくきょとんと父の顔を見つめたあと、またよちよちと母のところまで歩いていく。
危なっかしい歩き方だが、コレが子どもというものなのだろう。
「ジージョは本当にアンヨがお上手ねえ」
妻は息子を抱き上げた。
その様をみつめ、男は少し考え込む。
「……」
「……どうしたのあなた? 急に黙ってしまって」
男は大きくため息をついたあと、ゆっくりと話し出す。
言わない方が良いのかもしれないが、やはり気になる。
「いや……最近何かとよくないウワサを耳にしてな。せめてこのジージョが大きくなるまでは……」
この家族に何か有ったら。
そう思うだけで、男は心の中につめたいものが広がるのを感じる。
「大丈夫ですよ」
妻はにこりと笑うと、庭の隅に置かれた石像のところに歩み寄る。そしてその像の顔を見上げた。
「だってわが家にはあなたが1年前買ってきてくれた、この守り神の石像があるのですものね」
妻はこの石像を気に入っていた。
確かに、顔が美しいというのもある。
しかしこの石像がここに来てから、いいことばかりが起こっている。それが気に入っている一番の理由だった。
「そ……そうだったな。わっはっはっはっ」
男は薄く広がる不安を消し去ろうと、ムリに笑った。
時はどんどん流れる。
もう石像がこの家にやってきてから、随分長い時間がたった。
生まれたばかりだったジージョも大きくなり、庭を走り回っている。
「まあまあジージョったら。そんなにはしゃぐところびますよっ」
妻は息子のそんな様子をこれ以上ないくらい幸せそうな顔で見守っていた。
「わーいわーい」
ジージョは嬉しそうに声をあげながら、庭の草を引っ張ってみたり、走り回っていたりする。
広い庭はジージョにとって世界の全てであり、冒険するにはちょうどいい広さだった。
その日はずっと良い天気だった。
しかしにわかに空が暗くなる。
音も無く二匹のホークマンが庭に降り立ってきた。
妻はその魔物を見て、息をのむ。
「……!!」
そうして息子に手を伸ばす。
「ジ……ジージョ! こっちへいらっしゃい……」
子どもにとって、初めて見るその生き物達は不思議で仕方が無かった。
「おじちゃんたち、誰?」
首をかしげて、ホークマンに近づいていく。
「ジージョ!」
妻は悲痛な叫び声を上げた。
「ケケケ! この子供か?」
母親の声など気にならないのか、ホークマンは何の警戒もなく自分を見上げる子どもを見下ろした。
「さあ? わからねえな。間違えたってドレイとして使えばいいだろう。ケケケ!」
「そうさな。子供なら大人とちがって、言うことを聞かせやすいし」
ホークマンたちはそんな恐ろしいことを言い合いながら、ジージョを見て、口の端を吊り上げる。
「や……やめて……その子は……」
叫ぶようにいいながら息子に走りよる妻を突き飛ばし、ホークマンはジージョを連れ去って行った。
強い風が一度吹き抜け、あとには何も残らなかった。
「ど……どうしたんだっ!? 一体何があったんだっ!?」
庭の異変に気付き、男は家の外に飛び出してくる。
「あなた! ジージョが……! ジージョが怪物たちに…!」
その言葉に、夫は言葉を失う。
「な……なんとっ!」
それだけ口にするのがやっとで、あとはただ呆然と空を見上げるしかなかった。
「あれからもうひと月。私たちのかわいいジージョは今ごろどこに……」
呟きながら頭を抱える男に、下男が声を掛ける。
「だんなさま」
旅から帰ったその下男は、少しやつれた顔をしていたが、それでもしっかりとした足取りで男のところまでやってきた。
「やっクラウドもどったな! で? どうなんだ? ジージョの事が少しでも?」
男はすがるように下男を見つめる。下男は困ったように目を伏せる。
「……いえだんなさま……それがさっぱり」
男は大きくため息をついた。
「そうか……。ごくろうだったな……」
何とか声を絞り出した男をみて、下男はそっとしておこうと家に入りかける。
突然男が大声を上げた。
「ええいっ! なにが守り神だっ!」
大事にしていた庭の石像を男は蹴り倒す。そして大声で叫びながら、ひたすらその石像を足蹴にし続ける。
「こいつめ! こうしてやる! こうしてやる!」
下男は慌てて男を止めた。
「だんなさま! だんなさま! どうかおちついて!」
何とか止めると、男は肩で息をしながらそれでも石像を睨みつける。つかれきっているのだろう。体を支えると、グッタリと体重を預けられた。
「ほらだんなさま。言わんこっちゃねえ。そんなに息をきらせて。さあ、家の中で少し横になったほうが」
下男の言葉に、男は頷いた。
「ああ……うむ……」
二人は家の中に戻る。
日が沈み、夜が来る。
朝が来ても、希望は見えない。
そのまま季節は流れ行く。
秋が来た。冬が来た。春が来た。そしてまた夏が来た。
世界は刻々と時を刻む。
しかし希望はまだ見えない。
■明日から青年後期。漸く話が進みます。
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