■あー、先に謝ります。別に馬は嫌いじゃないです。
 

■破滅の足音 7 (ピエール視点)
「主殿!」
私は先を歩いていきかけた主殿の手を思わずつかむ。
主殿は振り返って私を見た。
「主殿!」私はもう一度声を上げる。
主殿は二・三度瞬きをして、それから呆けたように私を見た。
「……」
冷たい雰囲気が消え、ギラギラと光っていた瞳も、もとの落ち着いた色に戻った。
「主殿」
私は何か言いたくて、ソレが言葉にならずに困った。
「きっと、ビアンカ殿は無事ですから……」
何とか言葉を搾り出す。マーリンが主殿の頭を軽く叩いて、私の後に続ける。
「だから、落ち着け」
主殿は大きく長く息を吐いた。
「ごめん……行こう」
短く言うと、主殿は歩き出す。ゲレゲレが私たちを見た。そして
『すまんな。許してやってくれ。仕方がないんだ』
「というと?」
『ジャミは……忘れるもんか。俺にとってもテスにとっても……許す事ができない、憎い敵だ』
それだけ言うと、ゲレゲレは少し早足で歩いて主殿に追いついた。そしてその手に鼻を押し付ける。
「うん、行こうゲレゲレ」
主殿が答える声が聞こえた。

 
階段をおりた先の部屋は、少し暑かった。
相変わらず窓がない部屋で、奥に置かれている大きな炎が部屋を明るく照らしていた。部屋には紫に金で装飾を施された趣味の悪い絨毯がしかれていて、その上にコレまで見たものよりも大きく、そして、ごてごてと飾られた王座があった。
そこには何かが座っているようだが、それはここからでは良く見えない。

そして、その王座から少し離れた右側の床の上に、ビアンカ殿が座っていた。
いつもどおり、青い服を着てオレンジのマントを身に着けている。髪も綺麗に整えられていた。

まだ何も起こっていないことは、それだけでわかった。

ビアンカ殿はこちらを見て立ち上がる。そしてそのまま早足でこちらに向かってやってきた。
主殿も小走りにビアンカ殿に走り寄る。
王座から少し離れた位置で二人は落ち合い、一度お互いをしっかりと抱きしめあった。そして離れると、ビアンカ殿は主殿の手をしっかりと握った。そして少し嬉しそうに笑うと、
「テス! やっぱり来てくれたのね!」
しかしそのあと複雑な表情を浮かべる。
「でも……来ない方がよかったかも。大臣を利用して私をさらったのは、テスをおびきだすため。そしてテスを亡き者にしたあと、自分が王になりすまして……」
ビアンカ殿は早口に、魔物が何をたくらんでいたのか告げる。
主殿は眉を寄せてその話を聞いていた。

と。

一瞬、部屋がコレまで以上に明るくなった。
「あ!」
ビアンカ殿が声を上げる。雷の魔法に打たれて、ビアンカ殿が倒れたのだ、と気づくまでに時間がかかった。
「ビアンカちゃん!」
主殿は叫ぶと倒れたビアンカ殿を抱き起こす。
そしてほっとしたように息を吐いた。
……無事だったのだ。
私はほっとしながら、奥の王座を見つめた。

 
「さて、ムダ話はもういいだろう」
奥から声が聞こえた。
王座に座っているのは、巨大な白い馬の魔物だった。
品のない瞳でこちらを見て、それから馬鹿にしたように主殿を見た。
「国王たる者、身内のことよりまず国のことを考えねばならぬはず! なのにお前はここに来てしまった。それだけで十分に死に値するぞ。わっはっはっはっ! さあ! ふたり仲よく死ぬがよい!」
馬鹿にしきった声で奴は言う。
主殿は暗い瞳を相手に向けた。
「身内も助けられない男に、どこの誰が国王をさせる? 身内をさらわれてものうのうとしている冷たい王を、どこの国民が信頼する?」
主殿はゆらりと相手に向かって歩き出す。
「大体、王に成りすますだって? その作戦はもうラインハットで失敗済みだろう。しかもグランバニアは条件が違う。ボクを知ってる人間が周りを固めていて、変だと気づかれるほうが早い。そんな穴だらけの作戦で、一体何ができるって言う?」
主殿は相手を見据えて鼻で笑ったあと、唾を吐いた。
「馬鹿じゃない? ああ、馬鹿って馬と鹿って書くんだっけ? 馬だもんねえ、生まれつき低能なんだ。気の毒。生きてるだけで世界のゴミだ」
相手の顔が真っ赤になった。
「地べた這いずり回って生きていたドブネズミがふざけた事を! ぶっ殺してやる!」
「へえ、ボクの顔覚えてたんだ。馬鹿な割には。褒めてあげるよ。そして言葉全部返してやる。ジャミ……殺してやる」

 
戦闘が始まった。
相手は……ジャミというその魔物はとてつもなく強かった。
魔法は跳ね返され、斬っても手ごたえがない。
相手の一撃一撃は強烈で、殴られるたび体の奥が抉られるような気がする。しばらくすると私は回復に手一杯になって、斬りかかることすらままならなくなった。
「どうした? 俺を殺すんじゃなかったか? わっはっはっはっ! 俺は不死身だ! だれもこの俺様をキズつけることはできまい! テス! 死ね!」
馬鹿にした声でジャミは言うと、主殿を踏みつけた。
「……!」
主殿は息を止める。悲鳴だけは絶対に上げないつもりなのだろう。
「主殿!」
私が叫んで近付こうとしたときだった。

「やめなさいジャミ!」

凛とした声が響いた。見ればビアンカ殿がこちらに走り寄ってきてジャミに向けて大きく手を広げていた。
ビアンカ殿の体が、不思議な光に包まれている。
その光は、青いような白いような、表現が難しい色をしていて、眩しいのに、見つめて居たくなる。
美しい光で、安心できるような心地よさがあった。
そして、腕を広げて立つビアンカ殿は、まるで十字架のように見えた。

「この光は!」

ジャミが焦ったような声を上げて後ずさる。
主殿がすばやく起き上がった。
ジャミが少しずつだが弱っていく様に感じられる。
「さあ! テス! 今よ!」
ビアンカ殿は相変わらず凛とした声で叫ぶとジャミを指差す。
主殿は頷いた。

そこからの戦闘はあっという間だった。
ソレまでのジャミの強さは、何か魔法のようなもので守られた脆弱なものだったのだろう。ソレをビアンカ殿が吹き飛ばした。だから、我々は勝つ事ができたのだ。
虫の息のジャミは、こちらを見ておびえているようだった。
「こ……こんなはずは……。さ……さっきの光は……。まさかその女! 伝説の勇者の血を……」
焦ったような声。

『伝説の勇者?』

その単語に私はビアンカ殿を見上げる。
ビアンカ殿はきょとんとした顔でジャミを見つめていた。
その体はもう光ってはいない。いつものビアンカ殿だった。

ジャミは宙を見つめて叫ぶ。
「ゲマさま! ゲマさま……!!」
しかしそこまでだった。
声が途切れる。
息絶えたのだろう。

「……ゲマ」
主殿が茫然と呟いた後、息を飲んだのがわかった。
ゲレゲレが低くうなる。

とんでもない敵が現れるのだと、そんな予感がした。

 
■ジャミ戦は本当にムカついて戦いました。
「何でこんな馬に説教されなアカンねん!」と。夜中に。
それだけムカムカしていたはずなのに、ジャミが白い馬の魔物だという事以外ほとんど姿を覚えて居ない今日現在。
タテガミ何色?

メモもひどい。
「〜(略)まさか伝説の勇者の」(かちました)

としか書いてない。苦戦しなかったんだろうなあ。

というわけで、ムカムカ具合を表現。しかしなんか中途半端。テっちゃん、馬鹿にし足りてない! もっと怒って良かった! 父の仇なのに!

次回ついに憎いゲマ登場。
青年前期ラストです。

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