■夜中にボブルの塔を攻略に行くぜ!と勇んで電源を入れ、セーブしてあったサラボナから外に出たら、
「お父さん、今日寝るときにお母さんの話を聞かせてね」
と、娘に言われました。

コレはもう、塔なんて登ってる場合じゃないでしょう。
宿屋に帰って寝物語に、乞われるがまま、いくらでもビアンカちゃんの話を聞かせるべきでしょう。

結局、眠気に負けてボブルの塔に行きもしなかった私。

 

■ポートセルミ (ピエール視点)
馬車の中からとはいえ、人間の町をちゃんと見るのはコレが初めてだった。華やかで、それでいて活気がある。
少しやかましいくらいだと感じた。
 
ラインハットでは、一応城の中は見る事が出来たとはいえ、あくまでもそれは限られた空間だけのことだった。
主殿の故郷、サンタローズは打ち捨てられたような姿にされていたから、参考にはならない。

ポートセルミは石畳が敷かれ、海風の心地よい穏やかな町だった。夜になると、明かりがつけられるという街灯を見て、主殿はしきりに感心している。
「すごいねえ、やっぱり大陸が変わると全然雰囲気が違う」
楽しそうにあたりを見回しては、喜んでいた。

歩いていると、やがて灯台が見えてきた。
その近くに座っていた大柄な男性が、灯台に向かう主殿に声をかける。
「あの灯台にはモンスターが住んでるんだぜ、気をつけな」
「……ご忠告ありがとうございます」

「モンスターだってさ」
主殿が、灯台を見上げて首をかしげる。
「どうして町の中に居るのかな?」
「確かめればいいじゃないか」
スラリンの言葉に、主殿は頷いて
「そうだね。もし、仲間になってくれそうだったら連れて行ってあげるほうがいいかもしれない。……じゃあ、町の人に見られないうちに、ささっと灯台に入っちゃおう」

灯台の中はしんと静まり返っていた。
壁沿いに螺旋を描いて、階段が取り付けられている。階段に手すりはなかった。
中央は吹き抜けで、足を滑らせたらおしまいだ。
「気をつけてね、皆」
「わかったー」
果たして、気をつける対象は「モンスター」なのか「階段」なのか。
特に私の場合、スライムに乗って移動するのだから、存外階段の方が厄介かもしれない。

灯台の中ごろに、人が住んでいる階があった。
かなり強面の灯台守だった。
「あんたもモンスターが居るって聞いてきたのかい?」
「……聞かされましたが……」
主殿が返事に困ったように視線を宙にさまよわせる。
「いえねえよ、そんなもん!」
灯台守に怒鳴られて、主殿が首をすくめる。
「あの、ごめんなさい。……ええと、上、のぼってもいいですか?」
「ああ、かまわねえよ、見晴らしいいからな。ルラフェンのほうを見たら煙があがってるかもよ。なにしてるんだかなー」
「そうなんですか。見てみます」

灯台守が主殿に背を向ける。それを見て、我々は階段をすばやく駆け上がった。
「何であの人が魔物とか言われちゃうかな?」
スラリンは
「そんなの、顔が恐いからだろ」
と答える。
「……うーん、そうなのかなあ?」
主殿は階段を上りながらしきりに首をかしげる。
「もしかしたら、よそ者が灯台へ入らないための配慮かも知れませんよ?」
「あ、そうか。それかもね」

灯台の頂上は、驚くほど景色が良かった。
本当に遠くまで、世界が広がっているのが見える。
圧倒されるような水平線。
その海に点在する島々。
別の方向を見れば、広がる山々と、森。

世界は

広くて

そして、美しかった。

「あれ、何だ?」
スラリンが見ている方向には、何か機械のようなものが置いてあった。
「あれは望遠鏡だよ。あれを覗くととても遠くにある物が、手にとって見てるみたいに、近くで見てるように見えるの」
そういって、主殿が望遠鏡というものを覗いて見せてくれた。
「すっごーい! テス! テス! オイラも見たい!」
「うん、ちょっと待ってね。何か雲ばっかり見えるんだよ。何か見えるように調節するから」
そういって、主殿はその望遠鏡とやらを右の方向へすーっと移動させる。

「!!!!」

突然、主殿が息を吸い込んで、その場にしゃがみこんだ。
右手で口元を覆い、少し震えているようだった。
顔色がひどく悪い。
「主殿?」
声をかけると、主殿は大きく息を吸い込んで
「……ごめん、なんでもない。望遠鏡は覗くほどのものじゃない。何も見えないから。早くここから降りよう」
主殿は固い声で早口で言うと、こちらを見もせずに早足で階段のほうへ歩いていく。
「……見えないなんて嘘だよな。何だろう?」
スラリンが、全く覗く事の出来ない望遠鏡を恨めしそうに見上げる。
「ピエール、覗いてみてよ」
「わかりました」
私は、主殿がしていたように、その望遠鏡を覗いてみる。

遠近感が狂いそうな風景だった。

遠くにあるはずの、山が近くに見えた。
その山の頂上にかかっていた雲が切れると、そこにはまだ建てている最中らしい、大きな石造りの神殿があった。

あんな切り立った山の頂上に、どのようにしてその神殿は建てられたのだろう?
何を祭ったものなのだろう?
どうして、見ていると胸騒ぎがするのか。

色々な事を思いながら、私は望遠鏡から目を離す。
「何が見えた?」
「建設中の神殿です」
「……どうしてそれでテスがあんなに気分が悪くなるんだよ?」
「我々の知らない、主殿の過去が関係あるのかも知れませんね。主殿が話してくれるまで、無理やり聞かないほうがいいでしょう。見ただけであれほど心が不安定になるんですから、話すことなどまだ出来ないでしょう」
「オイラたち、話が出来ないくらい頼りないかな?」
「話す事で我々に無用な心配をさせると考えているんでしょう。主殿は全部自分の中に溜め込む性格のようだから」
「……いつか話してくれるかな?」
「祈りましょう」

我々が階段のほうへ行くと、主殿は灯台守の部屋寸前くらいの場所で座って待っていてくれた。
「お帰り」
「お待たせいたしました」
「……覗いた?」
「……はい」
「いつか話せる日も来ると思うけど、今はまだ、ボクのほうが心の準備も出来てないし、余裕もないんだ。だからごめんね」
「では、我々も聞きません」
「ごめん、ありがとう」
主殿は弱々しく微笑むと、先にたって歩き出す。

その姿は、ひどく傷ついた、幼い子供のように見えた。

 
灯台守のおじちゃんの台詞はたぶん間違ってると思う。
メモがなかった。
それにしても灯台守のおじちゃんは気の毒だ。
日記なんて「今日もモンスターに間違われた。顔がこわいんだろうか。鏡を見つめるが、今日も答えは出ない」とか書いてあるし(うろ覚え)
そんな灯台守のおじちゃんに最大限の敬意を!

大神殿は建設中には見えませんでしたが、まだ建設中なはず。
逃げてからまだ2ヶ月くらいしかたってないと思いたい。
もちろんトラウマ。
思い出したくない過去。

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