■昨日のところで、パパスはテっちゃんとの約束を守れなくて、どういう気持ちだったろう、って書いたんだけど、考えてみたら彼は妻を守ることが出来ず、そして探し出すことも出来なかった。
息子を人質にとられ、自分はその目の前で死んでしまった。
 
……テっちゃんの人生もかなり悲惨で気付いてなかったけど、パパスも結構悲惨だなあ……。
家系?
 
 

■ドレイ生活 1 (ヘンリー視点)
壁に引いてある短い6本の線に、横線をぎぎっと入れる。コレで一週間。壁にはずらっとそのあとが残ってる。
10年。
……10年。
オレはため息をつく。長い。
 
「あ、ヘンリー君、おはよう」
テスが首の後ろを掻きながら、大あくびをしている。
「おう、起きたか」
テスは眠そうな目で壁を見て
「……前のからどのくらい?」
と、あくび交じりに聞く。
「前の? ……2週間かな?」
「そろそろ新しい計画たてなきゃね」
「夜にな」
 
脱走計画の事、アサから言うなよ。
 
「今日ヘンリー君どっち?」
「オレは下」
「あ、ボク上」
「最近一緒にならないよな」
「ああ、一緒に居るとろくでもないことしかしないって思われてるんじゃない?」
テスは小さなパンをくちに放り込みながら答える。
「ヘンリー君、下なんだったら今日、マリアさんの事見といてあげなよ?」
「ああ、何か新人さん」
「そう。皿割ったとかの」
「……割れるもんだよなあ、皿は」
「言いがかりつけるのがやり方なんじゃない?」
そういって、テスは立ち上がる。
「じゃあ、また夜にね。ヘンリー君」

 
午前中は何事も無く過ぎた。今日は結構仕事が楽だ。
その事件は、午後におこった。

「……す! すみません!」
女の人の声が響いた。
「俺の足に石を落とすとはいい度胸してるな!」
「コイツ新人だぜ、思い知らせてやらねえとな。自分がドレイだってことをよ!」
見張りの奴らの声もする。
そちらを見に行くと、鞭で女の人が叩かれてた。新人の、マリアさんだ。
何人かがその様を助けたいが手を出せない状況で取り巻いている。それを見張りが「持ち場に戻れ!」と叫んでいる。
 
「ひどい……」
呟きがざわざわと聞こえる。
確かに最近オレとテスが静かにしてたぶん、見張りたちは鞭も振れずに何か鬱屈してたところもあるんだろう。だからって、女の人にそこまですることは無い。
 
……ガマン出来ない。
 
「ねえヘンリー君、何事?」
いきなり背後から声が聞こえて、オレはビックリして振り返る。
「うわ! テス! お前いつからそこに居たんだ!?」
「あ、今来たの。上で使ってるセメントなくなったから」
「酷いよな」
オレは女の人のほうを指差す。
「ああ、マリアさんだね。……酷いね」
テスもそちらをみて、厳しい顔をする。
「……オレはもう我慢できないからな。お前止めるなよ」
「止めないよ。手伝う」
歩き出したオレに、テスがくっついてきた。
「おう、サンキュー」
 
まあ、反抗には慣れてたりするオレたちは気軽にそいつらを伸したわけなんだけど、すぐに騒ぎを聞きつけた兵士たちがやってきて、まあ、捕まったわけだ。
当たり前だから気にならないが。
ちょっと気になったのは、マリアさんが手当てしてもらいに別のところに連れてかれたことだ。
……手当てって聞いたこと無い。
そんなことを考えてる間に、牢屋行き。
「ま、仕方ねえよな!」
「まあねえ」
「鞭で叩かれるよりはマシだし、暫く寝てようぜ」
「まあねえ、叩かれるよりマシだよね。ご飯抜かれるかもしれないけど、まあ、三日くらいまでならなんとかね」
テスも地面に座り込む。
「むしろ休めてラッキー?」
「あの人たちも、たたかない方が作業効率上がるってことにそろそろ気付くべきだよね」
テスは肩をすくめて笑うと、そのままころりと寝転がる。
オレも少しうとうととする。
 
がちゃりという音とともに、マリアさんの声が聞こえた。
「早くこちらへ!」
オレは寝ていたテスを引っ張って入り口まで行く。……入り口が空いていて、兵士とともにマリアさんが立っていた。
「先ほどは助けていただいて、本当にありがとうございました」
そういって、マリアさんは頭を下げる。一緒にいた兵士も頭を下げた。どういうことだ?
「妹のマリアを助けてくれたそうで本当に感謝している。私は兄のヨシュアだ。前々から思っていたのだが、お前たちはどうも他のドレイと違うらしい。生きた目をしている! そのお前たちを見込んで頼みがあるのだ。聞いてくれるな?」
ああ、なるほど。
兄妹なんだな。
オレは無言で頷く。
「実はまだウワサだが、この神殿が完成すれば秘密を守るためにドレイたちを皆殺しにするかもしれないのだ。そうなれば当然妹のマリアまでが……!」
ヨシュアさんはそこで一回ため息をついて頭を左右に振った。
そして、決心したように言う。
「お願いだ! 妹のマリアを連れて 逃げてくれ! ここにお前の荷物も用意した」
そういって、オレたちは向かいの水牢に連れて行かれる。
「この水牢はドレイの死体を流すためのものだが、タルに入っていればたぶん生きたまま出られるだろう。さあ誰か来ないうちに早くタルの中へ!」
 
コレはチャンスだ。
逃げるチャンスは今しかないだろう。
マリアさんはうつむいている。そりゃそうだ。兄をこんなところにおいていくんだからな。
テスは、暫くヨシュアさんを見ていて、突然くちを開いた。
「……それで、ヨシュアさんは、大変な事になりません?」
「覚悟の上だ」
「……じゃあ、こうしましょう。ヨシュアさんはマリアさんを牢屋に入れるのに鍵を開けた。そこをボクになぐられて気絶。鍵を奪って水牢から逃げられた。こうしたらとりあえず、ヨシュアさんの罪は軽くなるでしょ?」
「……」
「なぐられてくれますよね?」
ヨシュアさんはテスの目をじっと見ていて、やがて頷いた。

「ヘンリー君、先にタル入ってて。マリアさんの目、かくしておいてあげてね」
オレはマリアさんを先にタルに入れておいて、オレはタルからテスを見る。
テスはヨシュアさんの腹の辺りを思いっきりなぐった。
はっきり言って、ちょっとは手加減してやれって思うほどの音が聞こえた。
「有難う御座います、ヨシュアさん」
テスはそういうと、タルに入る。
「お前さ、もうちょっと手加減してやれよ」
「手、抜いたらばれるよ」
ヨシュアさんがよろよろとこちらに来て、タルのふたをしてくれた。
「気をつけて。幸運を祈ってる」
「ヨシュアさんも」
 


 
ドレイ時代は軽く書こうと思ってたので、軽めに書きました。
でも題名は「1」が付いてます。
そうです、禁断の「回想方式」をとるのです。
どうやってテっちゃんとヘンリー君が字を覚えたりしたのか、そのあたりを勝手に捏造させていただきます。
 
……現実的には本日ビアンカちゃんに会いました。
水のリングー♪
ビアンカちゃん、可愛いなー!!!
 
 
 

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